産経新聞社

ゆうゆうLife

団塊男性の地域デビュー 「会社人」脱皮の年 

※(財)シニアルネサンス財団のHPを基に作成


※(財)シニアルネサンス財団のHPを基に作成


 ■すぐ「地元のため」とは…

 団塊(昭和22〜24年生まれ)の退職で、この世代が地域で活動の場を求める「地域デビュー」が注目されています。ただ、特に男性は“会社人間”ともいわれただけに、地域活動になじめないなど、進展はいま一つ。今年は団塊世代の最後の年齢層が定年を迎えますが、スムーズに地域参加する秘訣(ひけつ)はあるのでしょうか? (佐久間修志)

 「最初はハードルが高かった」。広告会社を昨年退職、高齢者施設を訪問して懐メロを歌うなどの活動に取り組む埼玉県川口市の小谷浩二さん(61)=仮名=は、そう振り返る。

 阪神・淡路大震災を見て、地域の重要性を実感。10年以上も前から、地域活動に飛び込んだ。だが、「地域の人たちは、お互いに『カッちゃん』とか呼び合うなじみ同士。急には仲間に入れない。何とか仲間になろうと、平日の活動に参加するため、有給休暇まで取った」と、“地域デビュー”の苦労を明かす。

 働き盛りのころ、定年に対する印象は「年金で悠々自適」。だが、自分が定年を迎えると、「年金だって十分ではない。何より『やらなければいけないこと』がぱたっとなくなる。これは結構、つらいこと」と感じている。

 「自分たちの世代は、会社の喜びが自分の喜び。会社がなくなると、立ち止まってしまう人が多いのでは」と話す小谷さん。「退職した団塊世代の方があちこちの講座に参加するのも、そうでもしないと、自分の1日に、価値を見いだせないからではないでしょうか」

                   ◇

 団塊世代を中心とした川崎市の市民グループが企画したラジオ番組が昨年9月、放送を終了した。地域デビューの優良モデルとして期待されたが、放送期間は9カ月だった。

 「10月以降もスポンサーがつけば続行可能だったが…。地域に愛される番組にできなくて残念」。支援してきた市の担当者は肩を落とす。

 市が期待したのは、団塊の視点で地元のテーマを取り上げる番組。7月、聴取率低迷に危機感を持った担当者は「地域をどうしたいと思って、番組を企画しているんですか?」と尋ねたが、返ってきた答えは、「そこまで考えていなかった」だったという。

 担当者は「地元企業をうまく取り込めれば、スポンサーにもなり聴取者も広がったと思うのですが…」と振り返る。「今まで会社と自宅を往復していたのですから、すぐ『地域のために』とは考えられないのも、仕方ないのかもしれません」

                  ■□■

 ■自分に向いている分野探しが早道

 東京都が平成15年に団塊世代に行った調査でも、「地域の活動や住民との交わりに積極的」と答えたのは約1割にとどまり、特に男性は半数近くが消極的な回答だった。理由には「経験がない」「地元をほとんど知らない」などが挙がった。

 なぜ、団塊男性の地域デビューは進まないのか。シニアライフアドバイザーの松本すみ子さん(58)は「会社中心の団塊世代は、地域とかかわってこなかったし、まだ仕事ができると考える人が多い」とした上で、「地域での役割を軽視しがち。自分から地域に入っていくのは苦手でしょう」と分析する。

 また、シニアルネサンス財団の河合和(やまと)さん(62)は「団塊男性は会社という枠組みの中で、がむしゃらに働いてきた世代。やることが決まれば無類の強さを発揮するが、目的を失うと、なかなか動き出せない」と指摘する。

 「何かをしたくても、したいことが分からないのが団塊男性。『できることがあるなら誘ってくれ』といったところでしょう。それなのに、各自治体が行っている地域デビュー講座は、『何かしたいことを見つけてください』としか言わない。これではかみ合いません」(松本さん)

 では、スムーズな地域デビューには、どうすればいいのか−。それには、向いている分野を探すのが早道だ。両氏のアドバイスも参考に、ゆうゆうLifeでは、分野探しに役立つチャートと、会社人から地域人への切り替えができているかを自己診断できるチェックシートを作成した。

 河合氏が団塊男性に勧めるのは「地域のプロである奥さんに教えを請うこと」。「奥さんは夫の性格も把握しており、夫が何に向いているか知っている。また、奥さんを通じて、ネットワークを広げていくこともできる」とエールを送っている。

                  ■□■

 ■社会保障補完の担い手として期待

 広瀬隆人宇都宮大学教授(52)の話 公民館数の多い長野県が老人医療費の低減に効果を上げているのは、地域の社会教育活動が健康教育などと結びつき、“福祉力”を向上させていることが大きい。地域デビューが注目されるのは、団塊世代が社会保障を補完する地域パワーの担い手として期待されているためだ。だが、団塊世代は今まで顧みなかった地域に貢献してほしいという期待と、「定年後は会社を忘れて地域のルールに従うべきだ」との論理を突きつけられる。こうしたムードは社会参加の意欲を減退させる危険がある。

 地域社会の助け合いの精神や生きる場所としての魅力が発揮されるには、団塊だけでなく、地域そのものも変容も迫られる。地域デビューは、団塊にとっては地域社会に根を下ろす好機で、地域にとっては社会構造・組織の自己変革を促す機会でもある。

 自治体もデビュー講座を作るなら、双方にとってのチャンスを最大限、生かせるようにすべきだ。地域デビューの目的は、団塊世代に生きがいを与えることではなく、主体的に行動する市民を送り出し、包容力にあふれた地域社会を作り出すことだからだ。

(2009/01/01)