産経新聞社

ゆうゆうLife

編集部から 「社会的入院」を減らすために

 「ここにいれば、とにかく安心。入所して10キロも太ったよ」。男性の明るい表情が印象的だった。医療の充実した有料老人ホームの取材で出会った長井剛さん(87)=仮名=。長年ぜんそくを患い、通院治療を続けてきたが、一昨年、ホームへの入居を自ら決めた。

 自宅療養のときは、いつ来るか分からない発作におびえる日々だったという。体調を崩すのは大抵深夜で、枕元のブザーを鳴らして、同居の長女に異変を知らせ、病院に連れて行ってもらった。長井さんの場合、点滴さえ打てば病状は安定するため、入院は難しい。「夜中に起こすのは、長女にも負担がかかる」。長井さんのそんな悩みを解消してくれたのが、かかりつけの病院が手がける有料老人ホーム。料金も手ごろだった。

 治療の必要はないが、家族が面倒を見られないといった理由で長期に入院する「社会的入院」が問題になっている。長井さんの場合も、長女の負担は重く、長井さんが合併症でも引き起こせば、いつ社会的入院に転じてもおかしくない状況だった。

 国は、社会的入院が多いといわれる療養病床を削減する方針を掲げている。その受け皿を作るため、医療法人が有料老人ホームなどの高齢者住宅を運営できるように規制も緩和した。

 長井さんの笑顔をみると、その方向性は間違っていないように思える。高齢者の“終の棲家(すみか)”として、普及すればいいのだけれど。(篠原那美)

(2009/01/09)