産経新聞社

ゆうゆうLife

最期のときを家族と いのちの繋がりが支える活動

大山実 撮影


 イギリスで20年前に見たホスピス運動は、社会的な活動の側面があり、市民のボランティアの存在が大きな柱だった。募金活動など、皆さんが積極的に参加する。

 私の在宅ホスピスは、私個人の小さな活動で、大きなボランティア組織はない。しかし、講演や音楽会に遺族の皆さんをお誘いする際に、スタッフとして働く小沢みゆきさん(36)は、お母さんを8年前に看取ったのがご縁。52歳の女性スタッフも10年前、乳がんのお母さんを自宅で看取ったのが縁で、以後、私のホスピス啓蒙(けいもう)運動の事務局を担ってくれる。

 小沢さんは「先生、大きな組織はないけれど、ここには、いのちの繋がりがありますよ」と言う。

 亡くなったご主人の描いた絵を、「クリニックの待合室に」と貸してくださる方や、観葉植物を運んできてくれる人もいる。クリニックの前庭は、園芸が趣味の患者さんのおかげで、花が絶えない。ホスピス講演会の参加者が、次は主催のお手伝いをしてくださる。遺族のお宅でミニ講演会をさせていただいたこともある。

 「先生、全部ボランティアです。いのちのご縁が手渡されてます。日本製の、地味だけど、確かなボランティアですね」

 本当にそうだ。実は、私が最大のボランティアと感じるのは、亡くなった患者さんたちだ。連載にも登場してもらい、各地の講演でも触れる。

 どんなにすばらしいテキストや、偉大なホスピス学者を紹介するより、地に足を付け、市井で生きる患者さんと私たちがどうかかわり、家族とともに人生をどう生き抜いたかをお伝えすることが、一番胸に響く。

 最近は、亡き本山よしさん(91)=仮名=のことをお話しすることが多い。膵臓(すいぞう)がんの末期だったが、10カ月、安らかに家で過ごした。昏睡(こんすい)になる2日前、天然アユを2匹たいらげ、「ありがとう。おやすみ」と家族に告げて永遠の眠りについた。広島県で話したその足で、娘さんに報告した。

 「先生、広島は母の故郷なんです。母は生前、『もう一度帰りたい、瀬戸内海を見たい』と言ってました。ありがとうございます。母の故郷で母の話をしてくれて。母も喜んでいます」

 たくさんのいのちの縁で、私の活動は支えられている。(内藤いづみ 在宅ホスピス医)

(2009/01/28)