産経新聞社

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年金 年金質問箱 これって払い過ぎですか(下)

長谷川さんに届いた還付書類。将来のためにと納めた保険料は、年金に反映されず、“目減り”した(百円硬貨は還付されたものではありません)


 ■今さら100円還付されても

 宙に浮いた年金記録の問題で、国民年金の記録漏れが見つかったり、過払いが判明するケースが増えています。しかし、保険料の過払いが分かっても、返還される保険料は何十年も前の額。現在とは貨幣価値の異なる金額を還付された人からは、不満の声が上がっています。(佐久間修志)

 「あなたの国民年金保険料が、納めすぎになっていることが判明しました」

 兵庫県に住む長谷川孝さん(72)=仮名=のもとに先月中旬、社会保険事務所から、保険料還付用の書類が届いた。だが、「¥100」と書かれた還付金を見てびっくり。「こんな金額を今さら返されても…」。あきれて声もでなかった。

 還付書類が来るのを待ってはいた。昨年6月、地元の社会保険事務所を訪れたところ、国民年金に約3年間の記録漏れがあったことが確認されたからだ。職員は「手続きが混雑していて時間がかかります」と話していたが、「処理が終われば、いくらか返ってくるだろう」と気長に待つことにした。6カ月後、ようやく送られてきたのが、この書類だ。

 書類によると、還付されるのは、国民年金保険料と厚生年金保険料の支払いが重複していた昭和39年9月分の保険料。長谷川さんはこの月に転職しており、それぞれの年金保険料は、ともに会社を通じて支払われていた。当時は、私鉄の初乗り運賃が3円、そば1杯が46円の物価水準。今では取るに足らない100円の保険料も、ばかにならなかった金額だ。

 実は、昨年、社会保険事務所に行ったときも、往復約2400円の交通費がかかったという長谷川さん。今回来た書類には返信用封筒も同封されていたが、返信する気になれない。

 「だって、私が書類を返信したら、社会保険事務所の職員がわざわざ100円の還付のために、銀行振込などをするんでしょう? 人件費も含め、この費用と手間をもっと他のことに振り向けるべきではないでしょうか」

                   ◇

 ■返還請求は被保険者から

 国民年金の被保険者にあたるのは、厚生年金や共済年金の被保険者(第2号被保険者)、主婦など第3号被保険者のいずれにもあてはまらない人だ。

 このため、長谷川さんのように、厚生年金の加入期間に、国民年金の保険料が重複して支払われた場合、厚生年金の被保険者としての立場が優先される。国民年金の保険料は「被保険者でないものが誤って支払ったお金」とみなされ、返還される。

 返還金額が支払い当時の金額となるのも、「国が誤って徴収したというより、誤って支払われたお金を預かっている」という論理からだ。

 厚生労働省年金課は「厚生年金に加入している場合、国民年金を支払うことは通常はない。『なぜ、知らせてくれなかったのか』といった声はあるが、過払いに気づき返還請求するのは、被保険者側というのが前提」と主張する。かつては国民年金と厚生年金の年金番号が同一人物で異なっており、「加入記録が重複していても、本人か同姓同名の別人か、判別は難しかった」(同課)という経緯もある。

 「過払いの保険料は、不当利得なので、年5%の利子がつくはずでは」という議論もある。仮に長谷川さんの過払い分が不当利得として、支払った昭和39年からの利子を計算すると、元金の10倍近くにはなる。だが、利子の計算は、不当利得の還付請求を行ってからしかカウントできない。

 また、他の未払い期間に、加入期間としてカウントすることもできない。国民年金は2年前までさかのぼって納められるが、その時の保険料で支払うのが決まり。100円では難しい。

 しかし、年金記録を事実上、管理してきたのは国。「ねんきん特別便」などが始まり、加入者と国のダブルチェックが機能する今後はともかく、今までは自分で過払いに気づくことは難しかったのが実情だ。

 社会保険労務士の中尾幸村さんは「行政にも一元管理を怠っていた責任はあるはず。国民年金は金額ではなく、加入期間が何カ月かで給付額が決まるので、1カ月は1カ月として、別の未納期間に充当できるようにするほか、現在の保険料1カ月分として返還するような法整備をするなどの必要があるのでは」と話している。

(2009/02/18)