産経新聞社

ゆうゆうLife

編集部から 枯れ木が倒れるような死

 映画「おくりびと」は、青木新門(しんもん)さんの著書『納棺夫日記』(文春文庫)から生まれた。

 青木さんが納棺の仕事を始めた昭和40年代初期は、自宅で亡くなる人が半数以上。「枯れ枝のような死体によく出会った」。ところが、病院死が大半になり、「点滴の針跡が痛々しい黒ずんだ両腕のぶよぶよ死体」が増えた。「生木を裂いたような不自然なイメージがつきまとう。晩秋に枯葉が散るような、そんな自然な感じを与えないのである」と記している。

 病人が口から食べられなくなると、栄養補給に行われる点滴。今や、技術はさらに進み、胃や腸に直接、管を通して栄養を入れる「胃ろう」や「腸ろう」があたりまえだ。

 しかし、こうした患者を看取る医療者や介護者は強い疑問を抱いている。「胃ろうにすると、枯れ木が倒れるように死ねない。私はしたくない」(特養の施設長)、「末期の人に胃ろうなどで過度の治療をすると、皮膚の色も変わり、むくみで顔色や形も変わってしまう」(ベテランの訪問看護師)

 ところが、そんなことは事前に本人にも、家族にも知らされない。

 余命3カ月の末期がんでも、こうした処置が勧められることを、今回の取材で知った。医学的に必要なことが、本当にだれもが望むことなのか。死生観にかかわることが、十分な説明なくされていいのか、と改めて思ったのだ。(佐藤好美)

(2009/02/27)