産経新聞社

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ワークシェアの先にあるもの 不況時だけでなく(上)

少子高齢化の村の一大産業となった介護施設で、ワークシェアリングで働く職員ら=姫島村の姫寿苑




 ■介護が村の一大産業になった

 不況のたびに、仕事を分かち合う「ワークシェアリング」が話題になりますが、正社員の長時間残業が主流の日本では、なかなか定着しません。しかし、少子高齢化による労働力の不足で、今後は多様な労働形態を用意することが不可欠だとの声が高まっています。40年も前からワークシェアリングを実践してきた、地方の村の成功例から、今後の働き方を考えます。(北村理)

 大分県姫島村の村営高齢者生活福祉センター「姫寿苑」に、介護福祉士の中本由香里さん(38)=仮名=は6年前、就職した。

 「長引く不況で夫の収入が改善しなかったので、子供が幼稚園に入ったのを機会に応募しました」

 村は当時、主婦を雇用して家計を助けようと、1人分の仕事に2人を雇う「ワークシェアリング」で非常勤の介護職員を募集した。常勤職員の給与は村役場とほぼ同等で、2人でワークシェアした場合は、その半分。当初、この形態で4人が雇用された。

 しかし、施設利用者が増え、中本さんらは3人で2人分の仕事をするようになり、給与も3分の2に増えた。ボーナスも、常勤職員と同じ4・5カ月分が受けられるようになった。

 須賀祥喜(よしき)所長は「人材が必要でも、離島の村には、島外から人が来ない。不況でご主人の収入が減り、夫婦共働きが必要になった住民と、ニーズが一致しました」と語る。

 非常勤で雇った人材に、介護福祉士やケアマネジャーの資格取得を勧め、取得後は常勤職員として採用する。これまでにワークシェアリングで採用された8人のうち、4人が資格を取り、残る4人も準備中だ。

 常勤職員の年収は、介護職で約300万円。公務員並みのベースアップがあるため、島外の民間施設の常勤職員より多い。同一労働には同一賃金が支払われ、就職年数や年齢には、ほとんど影響されない。

 ワークシェアで、村は雇用を確保し、人材の質も高め、人が定着する。働く側にもメリットは大きい。中本さんは「はじめはアルバイトでも、という感じで応募したが、キャリアアップにともない待遇が改善されることで責任感が増し仕事を継続する見通しがついた」と話している。

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 ■姫島村 40年来の“お家芸”

 姫島村のワークシェアリングによる雇用の創出は40年来の“お家芸”だ。藤本昭夫村長は「高度成長期に公共事業が増え、役場に人手が必要となったが、財源は乏しく、低い賃金でなるべく多くの人を雇わざるを得なかった」と話す。村職員の給与は当時も今も、国家公務員を基準(100)としたラスパイレス指数で70・6。はたんした夕張市に次いで低い。それでも、役場は島最大の産業だ。

 住民も「限られた仕事を分け合う」気持ちが強い。かつて4000人以上だった人口は減る一方。島の存廃に危機感があるからだ。

 しかし、高度経済成長後、社会資本が整備されると、公共事業も役場の事務仕事も減少。そこで、村長が「役場での共働きは原則、禁止。女性は出産育児を機会に退職する。ただ、家庭の事情に応じて優先的に雇用する」とルール化、こうした人を積極的に新しい雇用の場に登用した。

 村の最大の課題は人口維持。そのためには、雇用の創出が不可欠だ。必要性の薄れた雇用の場から、新しい場への転換を、なかば強力に進めた。

 新しい雇用の場が介護だった。村は当時、高齢化で寝たきり問題が顕在化していた。赴任した診療所の医師が中心になって各家庭を巡回。地域のボランティアが声を掛け合う“寝たきりゼロ作戦”が展開された。

 今、村の要介護認定率は11・6%(19年度県平均18・4%)、介護保険料月額3500円(同、4216円)と、介護への依存度は県内で最も低い。

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 ■雇用者側は消極姿勢

 内閣府の調査(19年度)によると、共働き世帯は平成3年ごろに、男性雇用者と専業主婦の世帯を上回り、18年には977万世帯に上った。

 一方、厚生労働省のワークシェアリングに関する実態調査(16年度)によると、パートタイム正社員や在宅勤務など、多様な働き方を求める理由は育児、介護、キャリアアップ、社会活動など。特に介護は男女によらず、上位を占めた。

 制度の利用を求める被雇用者は4割に上るのに、雇用者側が「導入および検討中」と回答したのは、1割未満にとどまった。賃金や評価制度の困難さが導入課題として挙がるが、導入している雇用者は「経費の削減」よりも、「人材確保」「人材の有効活用」の効果が大きいと回答している。

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【用語解説】姫島村

 大分県国東(くにさき)半島の北5キロに位置する離島で瀬戸内海国立公園の一部。面積6・7平方キロ。沿岸漁業と車えび養殖が主な産業。人口は2500人で、うち190人が村職員。65歳以上の高齢化率は34%。島の成り立ちは古事記や日本書紀の国生みの神話に記載されている。

(2009/03/02)