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ワークシェアの先にあるもの 不況時だけでなく(中)

パートから取締役になった家永さん(左)と今本社長。社内のいたるところに「仕事と生活の両立」と掲示がある=兵庫県姫路市


 ■自由出勤で業務拡大

 ワークシェアリングは、長時間労働の抑制が大きな目標です。その代わり、雇用機会が増え、長時間労働の解消で生活も充実します。企業の中には、勤務日時を選べる自由出勤制度まで踏み込んだ例があります。(北村理)

 午後2時過ぎ、兵庫県姫路市のデータ入力加工会社「エス・アイ」の駐車場から車の出入りが続く。社員の外出目的は子供の迎えやPTA、家事など。そのまま帰宅する社員もいれば、仕事に戻る社員もいる。

 同社の業務時間は午前8時から午後6時で残業はない。だが、個々の出勤時間は自由で、前月に希望を出し、リーダーが調整する。急な変更も可能だ。

 70人の社員はほとんどが女性。取締役の家永雅子さんは15年前にパートで入社した。当時、娘は3歳と1歳。結婚前に勤めたIT関連会社は残業が多く、育児をしながら働くのは考えられなかった。しかし、友人の勧めで面接を受けると「来られる時間に来てくれればよい」といわれ、「半信半疑だったが、これならできそうだと思った」という。

 総勤務時間は、子供の成長とともに、月80時間から120時間、160時間に増え、5年前には役員に昇進した。「家事育児との両立を無理なく続けているので、パートから正社員、役員に昇進したという感覚がありません」という。

 自由出勤制度を作った今本茂男社長は「仕事が増えると、残業の連続でミスが目立ってくるし、家庭生活もおろそかになって辞める人が増える」と話す。家永さんがパートで入社した15年前当時は、社員の残業をパートで補おうとした。しかし、待遇差に不満が出た。そこで、パートを正社員にし、時給制の自由出勤にした。1日の仕事をその日出勤する全員で分けるワークシェアリングだ。今、社員の労働時間は月80〜168時間。平均113時間で、半分弱が厚生年金や会社の健康保険に入る。

 希望時間に集中して仕事をするとミスも減り、会社の信用も高まる。さらに「自由出勤を求め、いろいろな経験を持つ人が集まり、引き受ける仕事に幅ができ業務は拡大した」と、好循環を強調している。

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 ■成功の「秘訣」は新たな評価方法

 エス・アイの地元、兵庫県は阪神大震災後の深刻な不況以来、雇用創出のため全国に先駆け政労使の合意を発表し、ワークシェアリングの普及に取り組んでいる。ワークシェアリング実施で、県内66社で500人の雇用を創出した、と同県は分析する。エス・アイについても、「社員ごとにばらつきの大きい働き方への評価方法を開発したのが成功の秘訣(ひけつ)」と評価する。

 エス・アイの給与は時間給。仕事により、53種類あり、さらに社員別の達成度で評価される。仕事は分け合うが、賃金が一律に低く抑えられているわけではなく、750円から2500円まで様々だ。今本社長は「評価方法は開示して社員が把握しているので、収入の満足度と生活との間で気兼ねなく働き方を選べる。どうすれば収入が上がるかも分かるので、自発性と仕事への責任感も高まる」と言う。

 働き方見直しのアドバイザーをしている上林憲雄・神戸大学経営学部教授は「今までの雇用調整的なワークシェアリングだと、仕事への評価が会社の要求に沿うかどうかしかなく、合わないと、仕事を辞めるしかなかった。お互いの利害が一致するところを模索するのは手間とコストがかかるが、多様な人材が集まれば、企業の業績に跳ね返ってくる」と主張している。

(2009/03/03)