産経新聞社

ゆうゆうLife

ワークシェアの先にあるもの 不況時だけでなく(下)

復帰後の職場環境について説明を聞く客室乗務員ら=東京都港区の全日空本社


 ■雇用環境改善で活性化狙う

 企業にとって、働き方の見直しは、少子高齢化による労働力不足のなかで人材を確保し、業績を向上させる効果もあります。「不況のときこそ業務見直しの好機」と、取り組む企業もでてきています。(北村理)

 「出産、育児の経験を仕事に生かしてほしい。会社はあなたを必要とします」

 今夏に出産を控え休職中の全日空客室乗務員、山本絵美さん(36)=仮名=は2月23日、本社で初めて開催された休職者向けセミナーで、こう聞かされた。

 世界的な不況で業績が落ち込むなか、来年は羽田、成田の発着枠が広がる。会社としても勝負の年だ。セミナーでも「来年には職場環境は大きく変わります」と説明があった。

 「そんなときに現場を離れ休んでもいいのだろうか? そんな不安を解消しようと参加した」セミナーだった。

 セミナーには、予想を上回る55人が参加した。「不安なのは私だけじゃないんだ」。山本さんは仲間の顔を見てほっとした。

 2年間の育児休業をへて復帰間近の鈴木優子さん(34)=仮名=も「ベビーシッターさんをお願いする際の補助など、先輩のママさん乗務員から具体的な利用法が聞けて、復帰の自信がつきました」と話す。

 休職者向けセミナーは、同社が一昨年、人事部に設けた「いきいき推進室」が企画した。ワークライフバランスを進める専門部署で、女性2人がスタッフだ。

 半数を女性が占める同社では、出産、育児などの休職者は現在、500人に上る。これまでは、離職中の不安や孤立感からか、結局、復職しない社員も少なくなかった。宮坂純子・いきいき推進室長は「制度はそろえても、説明に具体性が欠け、不安を解消する取り組みがなかった。会社が厳しい時だからこそ、全日空らしさを示せる社員が必要。今回の取り組みは、社員に長く活躍してほしいという意思の表れです」と話している。

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 ≪働き手の変化に対応を≫

 兵庫県立大学の開本(ひらきもと)浩矢教授(組織行動論)の話 「少子高齢化による労働力不足で今後は共働きが主流となる。男女問わず、育児や介護などの生活変化に向き合わざるをえなくなる。働き手を確保したい企業は、働き手の生活変化に十分対応できる制度を整える必要がある。それができない会社は競争力を失う」

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 ■全日空 長時間勤務の抑制目指す

 厚生労働省は昨年から「仕事と生活の調和(ワークライフバランス)推進モデル事業」を始めた。

 全日空は参加10社のひとつ。長時間勤務を抑制し、シニア社員への意識啓発も行う。まだ試験段階の在宅勤務は10人が利用。いずれ2000人が利用可能と見込む。

 厚労省は「雇用の厳しいときこそ、働き方を根本から見直し、多様な人材が仕事を分かち合う方策をさぐるべきだ」とする。

 内閣府の調査(17年度)によると、ワークシェアやワークライフバランスに取り組んだ企業は、利点について、優秀な人材定着と教育コストの低減▽従業員の満足度向上による積極性の醸成▽長時間労働抑制やミスの減少など業務改善−などを挙げる。

 全日空人事部の丹治康夫担当部長は「生活とバランスの取れる雇用環境を提供することが、人材定着につながる。人材定着で、経験でしか伝えられない全日空のサービスを伝えていける。また、若いうちから仕事と生活のバランスが取れていれば、定年後の生活にも移行しやすい。団塊の社員を多く抱えれば、負担も大きいが、世代交代がスムーズに進めば、社も活性化する」と期待している。

(2009/03/04)