産経新聞社

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年金質問箱 「年上の妻」の加給年金


 ■配偶者の受給開始でストップも

 「年金質問箱」に、特に多い質問が加給年金について。厚生年金に上乗せされる“家族手当”です。団塊の世代なら、条件を満たせば一定期間、年40万円も受けられます。関心が高い一方、夫婦の年齢と年収、加入期間などにより、受けられる額や期間が異なり、分かりづらいのが難点。今回は、妻が年上の夫婦を取り上げます。(寺田理恵)

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 ■「夫が配偶者」で受け取れるか

 奈良県大和郡山市の佐藤治雄さん(56)=仮名=は2年前、長年勤めた会社を早期退職したのを機に、老後の人生設計を考えるようになった。

 そこで抱いた疑問が加給年金について。「年金について、公的な機関で行われる学習会や新聞などで学び、加給年金があることを知りました。わが家は受けられるのでしょうか」

 加給年金は、年収850万円未満の配偶者がいる場合などに受けられる。一般に「サラリーマンの夫と専業主婦の妻」のモデルで説明されるが、「わが家は共働きで、妻が年上なんです」と佐藤さん。

 佐藤さんの妻、恵子さん(60)=仮名=は昭和23年5月生まれ。厚生年金の加入期間が約28年あり、60歳から報酬比例部分を受け、62歳で定額部分の支給が始まる。“配偶者”は妻ばかりとは限らない。妻が年上の場合、治雄さんが配偶者の要件を満たせば、恵子さんが加給年金を受けられる。

 配偶者の要件には、「65歳未満」「年収850万円未満」がある。治雄さんは、恵子さんが62歳になるときに、58歳。早期退職後、介護施設に勤務し、サラリーマン時代に800万円以上あった年収は半減したから、いずれの要件も満たしている。

 もう1つの要件は「原則、厚生年金加入20年未満」。しかし、治雄さんの加入期間は35年余りある。「妻は加給年金を受けられないのでしょうか」

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 ≪共働きでも受けられる!?≫

 社会保険労務士の井戸美枝さんは「佐藤夫妻の場合、恵子さんが加給年金と特別加算を合わせて年約40万円を約2年受給できます。ただし、治雄さんには振替加算がつきません」と回答する。

 治雄さんが厚生年金に20年以上加入しているのに、恵子さんが加給年金を受けられるのは、治雄さんが年金受給権を得ていないから。治雄さんが60歳になり、自分の年金を請求すると、恵子さんについている加給年金はストップする。配偶者が65歳になったら、年金に加算される振替加算も、治雄さんは厚生年金加入期間が20年以上あるため受けられない。

 ≪妻が専業主婦なら振替≫

 年上の妻が専業主婦などで、厚生年金加入期間が20年に満たなければ、付き方が異なる。

 井戸さんは「仮に恵子さんが加入20年未満なら、加給年金を受給できません」とする。

 しかし、治雄さん自身が老齢基礎年金(または厚生年金の定額部分)を受け始めると、恵子さんに振替加算がつく。井戸さんは「振替加算は、自分の年金として死ぬまで受けられるので安心感があり、長生きすれば加給年金を上回る額が受けられます」と指摘する。

 井戸さんは「間違えやすいのが、厚生年金の『中高齢者の特例』。配偶者の加入期間が20年に満たなくても、特例で20年以上とみなされ、加給年金や振替加算を受給できなくなる場合があります。子育てが一段落してから勤め始めた女性で、ときどき見られます。受給のために加入期間の調整を考えている人は、気をつけて」と注意を促している。

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【用語解説】加給年金

 厚生年金に原則20年以上加入した人が、「65歳未満の配偶者」「高校生以下の子」「20歳未満で障害等級1、2級の子」の生計を維持している場合に支給される。金額は、配偶者だけの場合で約23万円。受給者の年齢に応じた配偶者特別加算は、昭和18年4月2日以後に生まれた人で約17万円。

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【用語解説】振替加算

 加給年金の対象だった配偶者が、65歳から受ける加算。配偶者が自分の老齢基礎年金を受け始めた時点で、加給年金が打ち切られ、配偶者の年金に振替加算がつく。金額は生年月日によって異なり、昭和41年4月2日以降に生まれた人にはつかない。

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【用語解説】中高齢者の特例

 昭和26年4月1日以前生まれの人は、男性は40歳以降、女性は35歳以降に厚生年金加入期間が生年月日に応じて15〜19年以上あれば、老齢基礎年金を受給できる。この場合、厚生年金の加入期間が20年あるとみなされる。

(2009/03/16)