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年金質問箱 老齢基礎年金の繰り上げ

 老齢基礎年金の受給は原則65歳から。本人が希望すれば、早めに受ける「繰り上げ」や、遅らせる「繰り下げ」もできます。繰り上げた場合、年金額は規定の減額率で減り、その額が一生続きます。一定期間が過ぎると、累計受給額が逆転してしまうので、慎重に考える必要があります。(寺田理恵)

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 ■繰り上げると、一生減額が続く

 神奈川県の主婦、大島初江さん(78)=仮名=は、年金記録問題をきっかけに、自分の受けている年金額に間違いがないか心配になった。

 「私の年金額は28万円です。繰り上げ受給したので少ないのですが、周りの人から『少なすぎる』といわれます」。思い切って社会保険事務所を訪ねたところ、窓口で「65歳で受け取っていれば年間約49万円もらえたのですが、5年間前倒しで受け取ったから、少ないのです。60歳でもらい始めると、70%に減ってしまうのですよ」と説明を受けた。

 専業主婦の大島さんは昭和48年1月、まだ任意だった国民年金に加入した。60歳までの加入期間を元に年金額を算出すると、老齢基礎年金額は約49万円となる。しかし、大島さんは原則65歳から受け取る基礎年金を、60歳からに繰り上げて受給した。元サラリーマンの夫(83)には十分な年金があり、生活には困らなかったが、当時は「体が弱く、長生きはできないから、早くもらった方がいい」と思っていた。

 窓口では納得したものの、「よく考えると、49万円の70%だと、年34万円になるのでは」。再度、足を運んだが、別の職員が「間違いないですよ。5年前倒しでもらったのですから、今さら直しようもありません」と言うばかり。「いったい、どのような計算をされるのか分からない」と困惑している。

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 ■変更は不可能…慎重に

 年金は、繰り上げて受給すると減額される。老齢基礎年金を60歳に繰り上げた場合の受給率は、65歳で受け取った場合の70%。しかし、昭和16年4月1日以前に生まれた人が60歳に繰り上げた場合は、58%になる。そのため、昭和6年生まれの大島さんの年金額は約28万円となる。

 繰り上げ受給の短所は、取り消しができず、一生、減額された年金を受ける点。一定期間が過ぎると、65歳から受給した場合に比べ、累計受給額で逆転してしまう。大島さんのケースでも、これまでに約500万円を受け取ったが、65歳から受けていれば600万円を超していたはずだ。「こんなに長生きできるとは思わなかったのです」と大島さん。

 繰り上げ受給の短所はほかに「寡婦年金が受けられない」「障害者となっても、障害基礎年金を請求できない」などがある。理解した上で決めたい。

 大島さんが周囲から「少ない」と指摘される理由は、もう一つある。大島さんに振替加算がつかないためだ。

 加給年金の対象となっていた配偶者には、65歳から振替加算がつく。大島さんの世代では、年に約20万円と大きい。繰り上げ受給をしても受けられるが、大島さんの夫は大正14年生まれで旧法が適用されるので、加給年金が夫に出続ける。

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【用語解説】寡婦年金

 老齢基礎年金の受給資格期間(保険料納付済みまたは免除期間が計25年以上)を満たす夫が死亡した場合、10年以上婚姻関係のあった妻に60歳から65歳になるまで支給される年金。死亡した夫が(1)国民年金の第1号被保険者(2)老齢基礎年金を受給していなかった−などが条件。

(2009/03/17)