産経新聞社

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年金質問箱 60代前半の年金受け取り


 ■受け取る年金額は「同じ」

 60代で働きながら、年金をどう受け取るかは、関心の高いところです。今日は厚生年金を受け取れる年齢に達したものの、受け取りを遅らせて額を増やす「繰り下げ」は可能かと、手続きをしていない女性の話をお届けします。(佐藤好美)

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 ■60代前半…いつ手続きする?

 大阪府八尾市に住む会社員、小野美智子さん(61)=仮名=は、いつ年金の手続きをしようかと迷っている。

 30年以上、会社員として働き、60歳以降も再雇用された。今は毎月の手取りが25万円ほど。60歳から厚生年金の一部が受け取れる年齢だが、手続きはしていない。受け取りを遅らせる「繰り下げ」で年金が増えるなら、それもいいと思うからだ。

 「わずかのことですが、つい損得を考えてしまいます。でも、友人と話しても、『60代前半は繰り下げができない』という人や、『できる』という人がいて、よく分かりません」

 年金額を社会保険事務所で聞いたところ、60歳から厚生年金の一部が、61歳からおおむね満額の約120万円が受け取れると言われた。

 「働くのは、65歳が限界かなと思います。収入がなければ、年金を受け取らないのは難しいけれど、仕事のあるここ2〜3年なら、年金を受けないでもいいと思うのですが…」と話している。

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 ◆繰り下げはできない

 60代前半の年金について誤解している人は多い。1つ目のポイントは、65歳までの年金(特別支給の老齢厚生年金)は、繰り下げができないこと。

 例えば60歳の年金を、62歳まで待って受けても、額は増えない。

 2つ目のポイントは、会社員として働きながら厚生年金を受けると、年金額が減る「在職老齢年金」(計算式は昨年12月に詳報)の仕組みは、年金請求手続きをしなくても適用されること。

 手続きをしない人のなかには、請求を遅らせれば減額されないと誤解している人もいるようだ。年金は5年以内なら、さかのぼって請求できるため、仕事を辞めた後で請求しよう、というわけだ。しかし、実際には、年金減額は過去にさかのぼって適用される。

 つまり、60代前半では、年金の請求手続きをすぐにしようが、遅らせようが、受け取る年金額に違いはないわけだ。

 ◆加給年金に注意

 注意したいのは、小野家では、ご主人が加給年金を受けていること。特別加算とあわせて年に約30万円。

 小野さんが年金の受け取り手続きをしていないため、ご主人に加給年金が出続けているが、実は、小野さんが自身の年金を得ると、ご主人は加給年金の受け取り資格を失う。小野さん自身が厚生年金に20年以上加入しているためだ。

 このため、小野さんが手続きをし、さかのぼって60歳時の年金を受けると、ご主人もさかのぼって資格を失い、受け取りすぎた年金の返還を求められる。

 つまり、小野さんが手続きを遅らせると、受け取る年金額は変わらないのに、ご主人は返還すべき額がたまってしまうわけだ。

 加給年金が自動的に停止されないことについて、社会保険庁は「年金は申請に基づいて支給する。加給年金は配偶者に年金収入がないことをカバーするものだから、配偶者が申請を出しておらず、年金を受けていなければ、(夫に)加給年金を出すことになる」と話す。

 60代前半で厚生年金が受けられるようになったら、遅れず手続きをした方が、混乱はなさそうだ。

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【用語解説】繰り下げ

 65歳から受ける老齢基礎年金や老齢厚生年金を、66歳以降に受け取ることで、年金額が増える仕組み。昭和16年4月2日以降に生まれた人で、65歳での受け取りに比べ、66歳0カ月で8・4%増。以後、毎月0・7%ずつ増え、70歳で42%増。老齢厚生年金は、繰り下げできない年齢層がある。また、「加給年金」「振替加算」は増額されず、いったん停止もある点に注意。

(2009/03/18)