産経新聞社

ゆうゆうLife

老いと生きる 洋画家、城戸真亜子さん(47)(上)


 ■介護日記で義母を励ます 「相手を知ることが大切」

 洋画家の城戸真亜子さん(47)は平成16年から、認知症で要介護4の義母、トミエさん(87)の介護をしています。介護日記を作り、義母を励ます城戸さんは「介護では個々にあった対応が必要。介護する人のプロフィルを知るのが大切」と語ります。(文 竹中文)

 義母の異変に気付いたのは、がんを患っていた義父が平成16年夏に入院し、私たち夫婦が一時的に義母と同居を始めたときでした。義母は、義父の入院を把握できず、「お父さん、早く帰ってこないかしら」と。それで、病院に連れて行こうと思ったんです。

 でも、当時は認知症の知識がなく、どこに診察に行くべきか分からなくて。知り合いの医師に相談し、ようやく心療内科にたどり着きました。

 義母には、心療内科を受診するとは告げませんでした。要介護認定を受けさせられたと知ったときには、区役所に介護保険被保険者証を返しに行くような人でしたから、プライドを傷つけないように「定期検診に行きましょう」と誘ったんです。

 お医者さんからはまず「今日は何月何日ですか」と聞かれました。義母は「さあ…、そんなこと気にしないんですよ。この年齢になって、家にいると、歳月なんて必要なくなっちゃうから」なんて、ごもっともな返事をしていましたね(笑)。だけど、住んでいる場所を聞かれると、「お父さんと一緒に暮らしています」と。問診後、認知症の進行を遅らせる薬を処方されました。

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 義母が認知症だと診断された平成16年から、介護日記を書き始めました。義母が覚えていられるように、出来事を記録しておこうと思って。食べた物や行った場所などを書いて、木の葉や写真を添えて。好きなイラストも描いています。

 日記は義母が読み返せるように、自宅リビングのテーブルに置いています。読み終えると、義母は笑顔です。日記を読むと、気持ちが落ち着くようです。

 日記には、少し脚色もあるんです(笑)。義母が望まれている存在だと伝えたいから、感謝の気持ちをおおげさに書いたりして。締めくくりは「また行きましょうね」「ではではお休みなさい」など、楽しい気分になる言葉を書くようにしています。

 ただ、書き始めたころは失敗もありまして。ヘルパーさんが介護日誌だと思って、その日のケア内容を書きこんでしまったんです(苦笑)。読んだ義母は「こんなケアをしてもらっていたの」と落ち込んでしまって。そのページは切り取り、ヘルパーさんが報告を書くノートは台所の戸棚の中に置くことにしました。

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 介護では、個々にあった対応が必要で、答えはひとつではありません。本人の意思を尊重し、尊厳を守りながらサポートをする必要があると思います。

 義母はかつて、お花やお茶の師範だったこともあり、今でも、芸術的に花をいけるんです。バランス感覚がすばらしく、センスが身に付いている。そんな自分のようすが日記に書かれていると、とても喜ぶ。相手のプロフィルを知るのは大事だと思います。

 個性を尊重するという点では介護と絵は同じ。ぐちゃぐちゃな絵でも、絵の先生が「この変わったふくらみが面白いね」なんて言うと、味があるのかもと思える。見方を変えれば、違う感じ方はできるものです。いろんな個性があるから面白い。介護を通して知った、そんな気持ちをアートスクールでも伝えていきたいと思います。

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【プロフィル】城戸真亜子

 きど・まあこ 洋画家。昭和36年、名古屋市生まれ。本名、吉田真亜子。武蔵野美術大学油絵学科在籍中にカネボウ化粧品キャンペンガールとしてデビューし、女優、キャスターとして活躍。9年に東京湾アクアライン・海ほたるパーキングエリアの壁画が話題に。「学研・城戸真亜子アートスクール」主宰。

(2009/03/19)