産経新聞社

ゆうゆうLife

編集部から 古民家を高齢者施設に

 過疎地の取材にしては珍しく、若い女性と話す機会があった。

 「茶わん祭が6年ぶりに開かれるので、ぜひ見に来てください」とのお誘い。琵琶湖の北、滋賀県余呉町に伝わる“湖北の奇祭”の見どころは、山車に茶碗(ちゃわん)などを約10メートルも組み上げる秘伝の技。過疎化による人手不足で継承も危ぶまれたが、5月に開催されるという。

 無人駅のホームでのことで、ほかに人もおらず、何となく過疎化が話題になった。彼女が住むのは高齢者が約7割を占める限界集落。入り母屋造りの余呉型民家の並ぶ村を「合掌造りに負けない」と気付き、ただ一人の20代として残ったそう。「雪景色が本当にきれいなんです」と携帯電話で撮った写真を見せてくれた。

 余呉町のほとんどは山間部。豪雪地帯らしい、重厚な古民家が集落を形成する。昔話の絵本のような景色は、眺める分にはいいが、介護保険を利用するとなると事情は違う。

 一般に過疎の山間部では交通の不便な場所に高齢者宅が点在し、移動にコストがかかるため、介護事業者が参入しない。要介護度が重くなると町外の施設に入所せざるを得ない。余呉町も少し前まで同様だったが、空き家となった古民家を、高齢者の施設や住宅として活用する取り組みが始まっている。

 軌道に乗れば、高齢者は故郷を離れずに済み、福祉分野で雇用も生まれる。古民家が作る景観も維持されるはず。彼女の大切な雪景色も、きっと。(寺田理恵)

(2009/03/20)