産経新聞社

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2009年問題 製造業派遣の期間制限(上)

「理不尽なことには、きちんと主張していきたい」。地位確認を求めて提訴した圓山さん=兵庫県高砂市


 ■働けるのは年度末まで

 企業が同じ業務に派遣社員を使えるのは、一部の業務を除き、最長3年まで。製造業派遣の多くが今年、この期限切れを迎えます。派遣社員がいなくなったら、現場はどうなるのか−。「2009年問題」の現状と、雇用不安への影響を取り上げます。(佐久間修志)

 兵庫県高砂市にある三菱重工高砂製作所で働く圓山(まるやま)浩典さん(46)は昨年2月、自身の身分が請負社員でなく、派遣社員になっていたことを、請負会社から知らされた。

 派遣労働者が原則、同じ業務で働くことが認められるのは最長3年。「派遣社員なら、働けるのは年度末までだなと感じました」

 圓山さんは1月、「実質的に三菱重工に雇用されていた」として、同社の直接雇用社員としての地位確認を求め、神戸地裁姫路支部に提訴した。

 訴状などによると、圓山さんは平成12年、地元の請負会社に採用された。仕事はガスタービンの成型。圓山さんが手がけたガスタービンが、全国の発電プラントに出荷される。日本の電力需要を支える誇りが胸にあった。有給も退職金もなかったが、「ぐちぐち言う気持ちは、全くありませんでした」

 そんな気持ちが揺らいだのは一昨年秋口。社内掲示板で、自分の名前の下に「労派」とあるのが飛び込んできた。テレビや新聞で見た「派遣」の単語と重なった。「自分は請負会社の社員じゃなかったのか」

 疑念がふくらみ、個人加盟の労働組合をたずね、請負会社に自分の身分を問いただした。結果は「派遣社員」。

 三菱重工高砂製作所は「裁判は係争中で、詳しい内容についてのコメントは差し控えたい」とする。

 法廷で戦う圓山さんの視線の先には、長男(20)の存在がある。長男は中学時代から父親の仕事自慢を聞き、一昨年2月、同じ請負会社を通じて、三菱重工で働き始めた。自分の背中を追ってきたことに、うれしさを感じる半面、申し訳ないとも思う。

 「誇れる仕事。あいつにそう話したことに偽りはない。あとは、誇れる会社を残すことが親の使命」。裁判で勝ち取るのは、息子の将来だとも思っている。

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 ■直接雇用に尻込み、金融危機は恩恵!?

 労働者派遣法では、派遣先が派遣社員を同じ業務(一部業務を除く)に使う期間に制限を設けている。それを超えて使いたい場合、派遣先は業務を請負にするか、派遣社員に直接雇用を申し出なければならない。派遣はあくまで「一時的な労働力」だからだ。

 一方、製造現場では、派遣社員は安価で雇用調整の容易な人材として、継続雇用が必要な職場でも活用されてきた。「2009年問題」を前に、多くの製造業は派遣社員の直接雇用化や請負への切り替えに踏み切るとみられていた。

 都内の派遣・請負会社が昨年10月初旬に行ったアンケートでは、2009年問題の対策として、直接雇用を挙げた企業は48%に上り、請負化も含め、何らかの雇用確保を示唆した企業は8割を超えた。

 だが、米国発の金融危機で状況が一変。各製造業は一斉に派遣社員の削減にかじを取った。厚生労働省によると、昨年10月から今年3月までに離職する非正規社員は約15万7800人で、派遣社員が約7割を占める。

 「あれほどあった2009年問題に対する企業からの相談が、昨秋以降ぱたっとなくなった」。人材コンサルティング会社代表、城(じょう)繁幸氏はこう打ち明ける。

 「直接雇用に尻込みする経営者は多く、本音は派遣社員の契約を継続しないつもりだったのでは。しかし、3月に一斉に切ってバッシングを浴びるのは避けたい。その時期に起きたのが金融危機。企業側は派遣社員を調整弁として使うタイミングに恵まれ、不況下ではバッシングも少ない。2009年問題に限っては、企業にとって金融危機は恩恵だったのかもしれません」

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【用語解説】2009年問題

 労働者派遣法ではもともと、製造業での派遣社員活用は認められていなかった。だが、平成15年改正の際、1年間の期限付きで認められ、19年3月から、期限は最長3年に延長された。

 同時期、請負業者の社員が直接、指示や命令を発注元の製造業から受ける、違法な「偽装請負」問題が横行した。これが批判され、製造業は18年以後、労働力を請負から期限延長を見込まれた派遣へシフト。丸3年となる今年、派遣社員が一斉に期限を迎え、継続して業務につけなくなる。

(2009/03/24)