産経新聞社

ゆうゆうLife

2009年問題 製造業派遣の期間制限(中)

佐藤さんの給与明細。クーリング期間中はいすゞから給与明細が出され、約3カ月後に派遣会社からの明細に戻った



 ■「クーリング」…巧妙なワナ

 派遣先の企業が、派遣社員を使い続けるため、一時期だけ派遣社員を直接雇用するなどで、再び派遣に戻す「クーリング」という手口があります。企業が同じ業務に派遣社員を使えるのは、最長3年という規定から逃れるのが目的。脱法行為も問われることから、国は派遣に戻すことを前提とした直接雇用に警鐘を鳴らしています。(佐久間修志)

 「来月からは期間工になります」。神奈川県藤沢市にあるいすゞ自動車の工場で働いていた、佐藤良則さん(49)は平成18年9月、工場内にある派遣会社のブースで告げられた。「正社員に向け、一歩前進かな」。前向きに提案を受け止めた。

 ところが、どうも雰囲気が違う。佐藤さんによると、いすゞ側は「期間工の契約は最長2年11カ月で、そこで満了」と告げた。しかも、期間工になって最初の契約更新で、元の派遣会社の担当者が来て、「期間工で更新すると、ウチと縁が切れる」と、遠回しに更新しないようクギを刺したという。

 北海道に家族を残して働きに来ている佐藤さんは、「長く仕事をする」ことが最優先。仕方なく派遣に戻ったが、今年1月、金融危機による不況のあおりで、派遣の仕事も失った。

 契約解除を言い渡された後、派遣社員の期間制限を逃れるため、派遣先企業がいったん直接雇用する手口があると知った。「そういえば、期間工のときも、派遣元の担当者が出欠を取っていましたね」。健康保険関係の書類を見ると、期間工だった期間は3カ月と2日だった。

 この件について、いすゞ自動車側は「組合との交渉も継続中で、現時点ではお答えできない」とする。

 「まじめにやれば認めてくれない会社はないって思っていた」。当時、正社員よりも1時間早く出社して段取りしたのも、その信念からだったが…。「いつでも人員調整ができるよう、あの手この手で、派遣社員の身分にされていた。働いている誇りを奪われた。そう思っています」

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 ■規定逃れに歯止めも

 厚生労働省の指針によると、派遣先のメーカーが派遣社員を使うのをやめ、同じ業務で3カ月以内に再び派遣社員を使うと、継続して派遣社員を使っているとみなされる。派遣社員が同じ人でなくても、だ。この指針を逆手に取ると、「3カ月を超えて派遣社員を使わなければ、派遣期間が途切れたとみなされる」という理屈が成り立つ。

 この3カ月超は「クーリング期間」と呼ばれ、製造業の工場などでは、派遣社員を一時的に直接雇用するなどでクーリング期間後、再び派遣社員にするところも出てきた。「3年を超えて同じ業務に派遣社員を使ってはいけない」という規定を逃れるためで、佐藤さんも同じ扱いを受けたとみられる。

 しかし、名古屋地裁は19年、クーリング期間中の直接雇用を「派遣元から派遣先への出向」と認定。派遣元と派遣社員の雇用契約が続いていると判断。高裁でも確定した。

 厚労省も昨年9月、再度の派遣社員受け入れが予定されているような直接雇用は、是正指導すると通達。需給調整事業課は「単に3カ月を超えただけで派遣に戻すのは、一時的・臨時的な需給調整システムである労働者派遣の趣旨に反する」と話している。

(2009/03/25)