産経新聞社

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2009年問題 製造業派遣の期間制限(下)

日本マニュファクチャリングサービスの自社工場で行われる修理現場風景=宮城県岩沼市(提供写真)


 ■請負への切り替えは可能か

 2009年問題への対応で、選択肢の一つに挙がるのが、派遣から請負への転換です。しかし、これまで派遣社員を使ってきたメーカーは「切り替えは難しい」と及び腰。ある請負会社の取り組みを紹介しながら、切り替えが本当に難しいか、考えます。(佐久間修志)

 整然と並んだ作業台で、東京都内に住む井出悟さん(36)=仮名=は作業服姿で黙々とハンダごてを操った。この道15年の熟練工の手元で、故障で寿命の尽きかけた家電製品に再び命がともる。

 井出さんは派遣・請負会社「日本マニュファクチャリングサービス(nms)」の社員。同社はある大手家電メーカーの修理業務を請け負う。

 メーカーの仕事を、nmsの井出さんが行う派遣のような形。だが、井出さんに指示するのはnmsの上司で、メーカーから管理権限を一手に委ねられている。

 通常の請負は発注元メーカーの工場で作業するが、nmsは自社工場を持つ。「こちらのペースで作業ができるし、能率も上がります」と井出さん。能率が評価され、同社は修理の請負が増加。7人の派遣だった契約が、90人が携わる請負契約に発展したケースもある。

 製造業派遣は通常、登録型派遣が多い。派遣契約解除は即、雇用契約の解除につながる。対する請負は、メーカーと請負会社の契約がなくなっても、請負会社の社員であることに変わりはない。あるラインの仕事がなくなれば、別のメーカーから請け負うラインに移ればいい。昨年の金融危機でも、井出さんの職は心配なかった。

 井出さんは「もっと故障の診断ができる修理工を育てたい」と考えている。「診断ができるのは、作業ラインのキーマン。こうした人材が増えれば、会社が受注できる仕事も増えますから」。会社の未来に、自分の将来を見据えている。

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 ■メーカーは及び腰

 2009年問題への対応で、厚生労働省は派遣から請負への切り替えを有力な選択肢と位置づける。請負はメーカーの工場に社員を送り、メーカー側が求める作業を行うなど、派遣との共通項が多い。切り替えは一見、容易だ。

 だが、メーカーは「容易でない」と口をそろえる。請負業者の団体「日本製造アウトソーシング協会」の浜上真輔事務局長は「メーカーの工場で製品を作る以上、メーカーと請負会社の社員が互いに提案することは起こりうる。これを指揮・命令と取られると、偽装請負となり、イコール派遣とみなされる。メーカーはこれを嫌う」と説明する。

 紛れをなくすため、nmsが力を入れるのは(1)自社工場を持つなど、作業空間の完全分離(2)責任者を養成し、メーカーから作業を一任してもらう−の2点だ。

 具体的には、(1)nmsの工場で作業(2)請負を始める前から、責任者候補をメーカーに送り、方法論や要求レベルを体得させる。

 あるメーカーは以前、さまざまな派遣会社から作業員を受け入れたが、作業効率が安定せず、nmsの請負に切り替えた。

 その結果、1人当たりの作業能率が向上、小人数で従来通りの作業が可能になった。メーカーはコストを削減し、nms側も、かつての派遣作業員より高い報酬を社員に還元できた。小野文明社長は「『請負への切り替えは難しい』といわれるが、それは請負会社への製造業の認識が、偽装請負をしていた当時のレベルで止まっているだけ。できないことはない」と胸を張る。「本来の請負は、生産性や品質管理、作業員の能力向上なしには成り立たない。派遣を請負に切り替えることは、製造業に不可欠なこうした要素を、コスト削減に走りがちな今の世に問い直すことにもつながるんです」

(2009/03/26)