産経新聞社

ゆうゆうLife

病と生きる 女優・愛華みれさん(44)(上)


 □引退覚悟で舞台を降板

 ■精神力は“ひとつの薬”

 元宝塚歌劇団花組トップスターで女優の愛華みれさん(44)は昨年2月、首のしこりを見つけた。診断は“血液のがん”と呼ばれる「悪性リンパ腫」。抗がん剤や放射線の副作用に苦しみながら、8月に舞台復帰した愛華さんは「治療中に舞台の出演依頼を受けたら、ぐんぐん回復しました。精神力はよく効く“ひとつの薬”」と振り返る。(文 竹中文)

 昨年2月に、ネックレスを首に二重巻きにしていて、首にぽこっと、こぶみたいなのができているのを見つけたんです。最初は、ネックレスを締めすぎたのかなと思って。微熱や体のだるさもあったけど、体調不良と決め込んで地方公演を続けていました。

 でも、その間も、首でぷよぷよしていたので、気持ちが悪いなと思って。兄の勧めもあり、都内のクリニックに行ったんです。

 先生から「すぐに舞台の降板はできるのか」と聞かれたときは、驚いて「できないです」と即答しました。「降板」という言葉を聞いて動揺し、震えが止まらなかった。CT検査後に「悪性リンパ腫」と告げられました。

 その後、治療を遅らせることが可能かを調べました。ちょうどミュージカルの歌げいこが始まっていたので、休むわけにはいかなかった。どうしても治療を遅らせる必要があったんです。

 検査は大変でした。何度も採血するので、貧血になったし、精神もなえてきた。そのうち、早めに状況を伝えた方が、周囲の方に迷惑をかけないのかもと考えるようになりました。よい作品にするには、代役も早く見つけた方がいいですし。

 降板すれば、次の舞台依頼は来なくなると思っていました。だから引退も覚悟しました。

 降板し、3月末に入院。抗がん剤治療を始めました。副作用はすごかった。吐き気はしたし、髪の毛もばさっと抜けたし、つめも真っ黒になったし。何かを考えると気分が悪くなるから「何者でもないものになろう」と思って、丸1日「無」になって、棒のように寝ていたこともありました。

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 でも、実際は仕事への欲があってね。別の舞台の演出家が、私の入院中も回復を待っていてくれると聞いたんです。その後、ぐんぐん回復して、退院しました。精神力は治療の一環ですね。立てないような状態でも、病院で「抗がん剤を」と要望するようにもなりました。

 その演出家の舞台の本番が始まったのは、ちょうど放射線治療が始まったころでした。その影響でせきが出るようになって。でも、出演直前まで舞台の袖で猛烈なせきをしていても、ひざをたたいて舞台に出るとやむんです。

 舞台を見に来た主治医は泣きながら「治療に専念した人の結果を見て、この治療は間違いじゃなかったと思いました」と言ってくれました。

 よいタイミングで舞台があってラッキーでした。舞台がなかったら、治療は乗り越えられなかった。苦手な病院にも、舞台に立ちたかったから通った。通院中に、別の舞台の出演依頼もきて。感謝し、「だったら頑張るよ」と思えました。精神力は本当によく効く“ひとつの薬”だと思います。

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【プロフィル】愛華みれ

 あいか・みれ 女優。昭和39年11月29日、鹿児島県生まれ。60年、宝塚歌劇団花組に所属。平成11年、花組トップスターに。代表作は「源氏物語 あさきゆめみし」「ミケランジェロ」など。退団後はTVドラマや映画、舞台で活躍。5月6日から24日まで、東京「天王洲 銀河劇場」で、井上ひさし作の舞台「きらめく星座」に出演。山形、大阪でも公演予定。

(2009/04/23)