産経新聞社

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日々、大過なく〜糖尿病患者のサポート(上)

専門医を受診し、症状が改善された高田さん(手前)。高田さんの状況を総合的に判断した治療がカギだ=東京都葛飾区の加藤内科クリニック



 ■専門医に代え、飛躍的改善

 今や6人に1人が患者や予備軍とされる糖尿病は、自覚症状がなく、患者は自己管理が甘くなりがちだ。合併症を防ぐにも、専門知識と経験のある医師の管理が必要だが、専門医は少ない。適切な管理を受ければ状態は改善されるため、病気に詳しい医師を見つけることが療養のカギとなりそうだ。(佐久間修志)

 「この血糖コントロールなら良好です。よく頑張ってますね」。東京都葛飾区のクリニックで、医師の言葉に、都内に住む高田美緒さん(69)=仮名=は、はにかんだ表情を見せた。長男の篤志(42)さん=同=も、傍らで胸をなで下ろす。

 高田さんの糖尿病が発覚したのは5年半前。自治体の健康診断を受けたことがきっかけ。当初はなじみの総合病院で治療を始めた。

 治療に際し、やっかいだったのは糖尿病の少し前に始まった高田さんの「もの忘れ」。自分が糖尿病という認識がなく、好きなケーキを2人分食べようとしたり、一度食べた夕食を「まだ食べていない」などと主張した。

 加えて、総合病院の担当医は経験が少ないのか、病気について質問しても、明快な答えがない。たびたび先輩医師に“おうかがい”に奥に引っ込んだ。1日3回服用の薬を処方されたが、篤志さんも日中は仕事がある。「あの母の状態じゃ、きちんとは飲めない」(篤志さん)。

 結局、半年後も血糖値などは改善せず。高田さんは総合病院に見切りをつけ、糖尿病専門医のいる現在ののクリニックに移った。

 クリニックでは、会社勤めの篤志さんでも管理できるように、高田さんの状態に合わせて朝1回のインスリン治療を導入。併せて、朝晩2回の服薬に転換した。管理が行き届くと、血糖値は半分以下に、血圧も下がり、今では月1回の通院で良好な数値を保っている。

 「母はきちんとした先生が見つかって運が良かった」という篤志さん。「患者や家族は病気のことは分からない。医師や病院によって、対応が分かれるのは困りますね」と話している。

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 ■重要な医師の選択 100人いれば100通りの治療法が存在

 厚労省が平成19年に行った調査によると、糖尿病が強く疑われる人は国内に890万人、可能性が否定できない人は1320万人。合わせて、国民の約6人に1人に糖尿病の傾向が見られる。

 しかし、糖尿病は合併症を起こさない限りは自覚症状がほとんどないため、患者の理解は低い。同じ調査で「糖尿病が強く疑われる」人の約4割が、「ほとんど治療を受けたことがない」と回答している。

 加えて、治療中の患者でも、合併症が起こらないように状態をコントロールし続けるのは簡単ではない。血糖値だけでなく、血圧や悪玉コレステロールなどの値を正常にし、患者の生活スタイルに合わせた治療が必要だ。高田さんのように、認知症を発症すると、コントロールはさらに難しくなる。

 日本糖尿病学会の渥美義仁理事は「糖尿病は医師が薬を調整すれば足りるといった病気ではない。患者の食事や運動、生活などあらゆる要素が治療にかかわってくる。100人いれば100通りの治療があり、選択肢の多い医師にかかる必要がある」と、医師の専門性を重視する。

 しかし、患者数に比して、専門医は多くない。現在は約3900人で、単純計算では、1人の専門医が約5700人を見なければならない。専門医は同学会のホームページで検索できるが、地域にいない場合もあり得る。

 治療に専門性が不可欠なこともあり、専門医資格の取得要件は厳格。結果的に「専門医でなくても、糖尿病患者に適切な治療のできる医師は意外に多い」(東京都内の専門医)ともいわれる。しかし、この「隠れた糖尿病医」を探すのは難しい。

 では、患者が医師を探す目安は何か。渥美理事は「専門医以外に、日本糖尿病協会の登録医制度があり、糖尿病の治療に携わる地域の医師が多数、登録しているので参考にしては」とアドバイスする。

 ただ、専門医ほど登録条件が厳しくない。患者も自分に合う医師を根気強く探す必要がありそうだ。

(2009/04/28)