産経新聞社

ゆうゆうLife

日々、大過なく〜糖尿病患者のサポート(中)


 ■病院と診療所、心強い連携

 専門的な糖尿病治療では、総合病院に頼らざるを得ない。ただ、日ごろの体調管理が第一とあって、総合病院だけで患者を見るのは不可能。横浜医療センターでは診療所と治療を分担する連携体制を整えている。(佐久間修志)

 横浜市戸塚区の織田俊治さん(70)=仮名=は毎月1回、糖尿病でかかりつけ医にかかり、3カ月ごとに横浜医療センターで経過チェックを受ける。経過は良好で、次回のセンター通院は「半年後でいい」といわれた。

 この“二重通院”を始めて、織田さんは「ようやく治療にまじめになりました」と頭をかく。かかりつけの「佐藤胃腸科内科クリニック」の佐藤知子医師も、「年に数回しか来ないこともありましたが、今は真剣に取り組むようになりました」と評価する。

 ここまでには、紆余(うよ)曲折があった。40歳ごろ、会社の定期検診で「血糖値が高い」と指摘され、総合病院を紹介された。危機感をあおられ、ランニングなどに取り組み、体重を10キロ以上減らしたが、開業医にかかるようになり、体重は元のもくあみ。「強く言われなかったし、たいしたことないだろうと」。好物のかりんとうを仕事の合間に食べ続けた結果、平成13年に足が引きつる症状に見舞われ、入院することになった。

 退院後に紹介されたのが現在のクリニック。同クリニックは糖尿病治療で横浜医療センターと連携していたため、織田さんは医療センターに教育入院し、退院後2カ所に通院するようになった。

 治療に本腰を入れたことについて、織田さんは「医療センターでの教育入院が大きい」と話す。「病院でいくら指導されても、診療所の医師に“大丈夫、大丈夫”といわれたら、リバウンドしたかもしれない。でも、今はかかりつけ医と病院の先生の言うことに一貫性がある。油断して生活すると、すぐばれてしかられちゃうし」

 最近、自作の血糖値グラフをほめられ、ますますやる気の織田さん。「すぐ自分に甘くなる糖尿病患者でも、これだけ教育されれば治療に自覚を持てる。こんなシステムが、もっと広がってほしいですね」

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 ■患者情報は「共有」 専門医パンク状態/主治医2人でもOK

 横浜市戸塚区の横浜医療センターは開業医と連携。平成13年から「戸塚糖尿病ネットワーク」を展開する。

 定期的な指導や教育入院、合併症などの救急対応は医療センターが行い、日々の管理は開業医が担う。センターは開業医や看護師に勉強会も開催。地域の糖尿病治療の質向上を目指す。連携する開業医からの救急要請は断らない方針だ。

 患者情報を共有するための「地域連携パス」も分業に一役買う。見開き2ページに、センターの医師とかかりつけ医の記入欄が分かれる。項目を埋めると、患者の状況を互いがつかめる仕組みだ。開業医の記入欄にも「目の所見」の項目が。糖尿病治療には、定期的な目の検査が必須だが、見落としがち。記入欄があれば、「目の検査もきちんとしてね」というメッセージになる。

 発案した同センターの宇治原誠診療部長は「専門医は忙しさでパンク寸前だが、診療所と協力して質の高い治療を行うことは試行錯誤の連続だった」と振り返る。考えついたのが分業。「完全に抱えてもだめ。任せきりでもだめなら、仕事を分ければいい。主治医が2人でもいいじゃないか、と行き着いた」という。区医師会の協力も得て18診療所と始まった協力は現在44までに拡大した。

 宇治原診療部長は「非専門医でも知識が高まれば、患者さんの状態を管理し、適切なタイミングで総合病院に受け渡すことが可能になる」と話している。

(2009/04/29)