産経新聞社

ゆうゆうLife

日々、大過なく〜糖尿病患者のサポート(下)

間山さんの血圧を測る訪問看護ステーションけいふぁの小松さん=4月、札幌市内


 ■訪問看護、患者の実態を把握

 糖尿病は患者の生活に応じた治療が不可欠だが、患者の生活実態を医師がイメージするのは容易でない。そんな中、糖尿病の専門家が自宅を訪れ、生活実態をつかみながら医師と連携する取り組みが注目されている。(佐久間修志)

 「4日間で昼夜1回ずつの飲まれていないようです…」

 札幌市にある訪問看護ステーションけいふぁの看護師で日本糖尿病療養指導士の小松桂さんは、同市の中嶋ミキ子さん(79)=仮名=宅で薬の残量をチェックしてつぶやいた。

 中嶋さんは昭和53年に糖尿病を発症。平成6年と17年に脳梗塞(こうそく)を起こした。認知症もあり、マンション管理業の夫が介護しているが、仕事もあって妻の管理は万全でない。小松さんはケアマネジャーの依頼で17年から中嶋さんのケアにかかわる。

 部屋に目を走らせた小松さんは立ち上がると、テーブルのパンを、中嶋さんから見えない位置に動かした。「患者さんが食べてしまったら、一気に血糖値が上がりますからね」

 中嶋さんの夫は「商売上、来客が多く、もらった菓子折りがそのままだったりした。小松さんの目が入ることで、生活環境を変えられた」と感謝する。

 間山美佐子さん(41)=仮名=も週2回、小松さんの訪問看護を受ける。18歳で糖尿病を発症、合併症のため36歳で失明、腎移植。以後、小松さんの訪問看護を利用し、今も透析を続ける。「目が見えないので、血糖値などがどんな推移かイメージしにくいが、小松さんは専門知識もあり、判断をお任せできます」

 小松さんに「おととい、お好み焼きを結構、食べてしまいました…」と“申告”したこともあるが、「大丈夫、それくらい」と言われ、ほっとした。「不摂生をお医者さんには言いづらいが、小松さんには打ち明けられる。だから、治療もうまくいくのかもしれません」

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 ■療養指導士 医師と連携し生活環境を注視

 けいふぁは、札幌市内の総合病院で糖尿病ケアに関わった看護師と管理栄養士ら4人が設立した。全員が「日本糖尿病療養指導士」で、現在は約30人に糖尿病に特化した訪問看護を行う。利点は「患者のありのままの生活環境」に視線を注げること。

 糖尿病の治療方針は、患者の生活次第。患者が1日何回、どんな食事を摂り、どの程度、体を動かし、薬が飲めないのはどんなときか。こうした情報が、使う薬の種類や通院頻度などを左右する。

 ただ、こうした情報は医師には入りにくい。日本糖尿病教育・看護学会の理事で、大阪大学の瀬戸奈津子准教授は「生活を完全には明らかにしない患者もいるし、本人は意識していないが、重要な情報もある。結果的に偏った情報で治療を決めざるを得ない面もある」と指摘する。

 けいふぁの訪問看護は、患者の生活実態を“ガラス張り”にする。瀬戸准教授は「百聞は一見にしかず。『食事はお茶碗一杯で我慢ね』と栄養士が指導しても、お茶碗の大きさがどのくらいか、確認することに意義がある」という。情報が医師に伝えられることで、病気へのアプローチも大きく変わる。

 糖尿病患者は感染症を引き起こしやすい。専門知識を持った看護師なら、リスクの高い口腔ケアや排泄介助なども介護職に任せきりにしない利点もある。小松さんは「糖尿病の知識によって医師へのアプローチも違う。医療機関と私たちで、総合的なケアユニットが地域に生まれる」と話している。

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【用語解説】日本糖尿病療養指導士(CDEJ)

 日本糖尿病学会など3学会が設立した「日本糖尿病療養指導士認定機構」の資格。「医師以外の糖尿病エキスパート」で、糖尿病の自己管理を指導する看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床検査技師、理学療養士に与えられる。現在、1万3643人(平成20年6月現在)。

(2009/04/30)