産経新聞社

ゆうゆうLife

編集部から 仲間とともに見る「高いところ」

 「向き合って」(3月5、6日付)で取材した若手俳優、柳浩太郎さんの舞台に招待され、先日、東京の青山劇場に出かけた。

 柳さんは、交通事故の後遺症で今も記憶や身体に障害が残る。前途洋々の十代で不運に見舞われたが、インタビューでは「過去の自分がピークではなく、もっと高いところを、過去とは違うルートで目指す」と答えていた。

 演目は、幕末から明治に移る時代が舞台。明治新政府軍を迎え撃つために、寄せ集められた男たちが、身分を超えて友情をはぐくむ物語だ。「うまく演じてほしい」。家族になった気分で演技を見つめた。

 柳さんの役どころは、銃の達人。なるほど。くぐもった声が似合う役だから発声をカバーでき、武器が銃なら、立ち回りも少ない。柳さんは渋みのある演技で、舞台を引き締めていた。

 数少ない立ち回りシーンでも目をこらすと、共演者がさりげなく柳さんを誘導していた。舞台のテーマのように、出演者が固い結束で結ばれているのを見て感動。「1人を支えることで、全体も恩恵を受ける」と改めて思った。

 柳さんは、3月から上演した映画でも主演を務めたという。彼がいつかたどり着く「もっと高いところ」の景色は、きっと支え合う人たちとともに見るのだろう。(佐久間修志)

(2009/05/01)