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健保組合、保険料引き上げ サラリーマン二重苦




 ■給料は上がらないのに…

 「給料から天引きされる健康保険料が上がった」。会社員など約3000万人が加入する健康保険組合(健保組合)の1割超が、保険料率を引き上げた。健保組合は国民健康保険(国保)などに比べて豊かとされてきたが、今年度の赤字は過去最大となった昨年度と同規模の見込み。負担増は、どこまで拡大するのか。サラリーマンのぼやきが聞こえそうだ。(寺田理恵、佐久間修志)

 都内の会社員、小川浩史さん(36)=仮名=の職場では、4月の給与明細が配られた日、あちこちで「天引き額が上がった」との声が聞かれた。ふだんは見ない明細をよく見ると、健康保険料が3000円余り上がっていた。

 「2割5分増し。けっこう大きい値上げ幅です。上がると事前に聞いていましたが、給料は上がらないのに、こんなにとは」とため息をつく。

 健康保険料は、標準報酬月額に保険料率をかけた額を、加入者と事業主が折半する。料率は健保組合ごとに決まり、中小企業の社員などが加入する協会けんぽの8・2%より低く抑えられている健保がほとんどだ。

 小川さんの場合、昨年度まで6%台だった保険料率が4月から一気に8%近くに上がり、協会けんぽに近づいた。さらに上がれば、独自の健保組合を持つ意味も薄れかねない事態だ。

 上がったのは料率だけではない。健保の診療所で受診し、窓口でアレルギー薬の処方箋(せん)を出すと、いつもは無料なのに、約500円を請求された。これまで、組合が肩代わりしていた薬代を、今年度から加入者も負担することになったという。

 小川さんは「町の薬局だと2000円以上かかるから、まだまだ安い。それでも、薬を減らそうかと思いました。上の子が幼稚園に入り、教育費がかさむようになりましたし。昔は給料も保険料も上がったのでしょうが、私たちの世代は給料が下がり、保険料が上がる。取られっぱなしです」と嘆く。

 保険料率の上がったサラリーマンは少なくない。健康保険組合連合会(健保連)が4月に発表した平成21年度健保組合予算の早期集計(回答率88%)によると、平均保険料率は7・412%で、前年度比0・046ポイント増。報告があった1304組合のうち187組合が料率を引き上げた。

 原因の一つは、組合から高齢者医療への拠出金が増えたこと。後期高齢者医療制度が発足し、新制度に移行した昨年度は赤字組合が急増。解散して、協会けんぽに移行する健保組合が相次いだ。今年度は、赤字組合が約92%にのぼると推計される。

 景気の悪化でサラリーマンの収入は減り、保険料収入も減っている。健保連では「実態はもっと厳しくなるのではないか。健保組合の第一の使命は、現役世代への給付。ほかの制度への拠出が50%を超えると、被保険者の理解を得にくい」と話している。

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 ■若年層比率高いほど大きい負担増                  

 若年層の組合員比率が高い健保組合ほど、負担増は深刻だ。若い女性が多い派遣社員向けの健保組合「はけんけんぽ」も昨年度、保険料率を1・5ポイントアップした。

 運営する人材派遣健康保険組合によると、はけんけんぽの加入者は9割が派遣社員。ほとんどが若い女性で、高齢者の加入割合が極端に低い。19年度までの保険料率は6・1%だった。だが、「現役世代が等しく負担する」新制度では、高齢者を対象とする拠出金(退職者給付を含む)が465億円と、前年度の約2倍に急増。昨年3月、保険料率を7・6%に。

 また、独自サービスとして、加入期間に応じてポイントが貯まり、健康グッズなどと交換できる制度があったが、それも廃止した。

 同組合は「今年度の料率アップはない」と強調する一方、「派遣スタッフの収入は必ずしも高給とは言えない。現役世代だからといって一律に負担を求める新制度が、社会のためになっているのか、疑問を感じざるを得ない」と話している。

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 ■健保組合、昨年度は過去最大の赤字

 65歳〜74歳の「前期高齢者」の医療費に対し、健保組合など被用者保険からの拠出は従来、国民健康保険(国保)にある「退職者医療制度」だけだった。しかし、昨年度、後期高齢者医療制度が導入され、同時に前期高齢者にも拠出が拡大された。健康保険組合連合会によると、健保組合の昨年度予算の収支は過去最大の赤字となった。

 高齢者の医療費は、被用者保険と国保の各医療保険制度が拠出して賄う。被用者保険には現役世代が多いが、国保には高齢者が多く、医療費がかさむ。制度ごとに高齢者を支えると、高齢者の多い国保で加入者負担が重くなる。拠出金は、制度間で負担をならすのが目的だ。

 今後も高齢化は進み、医療費は膨らむ見通し。現役世代の負担増が続けば、高齢者との保険料負担の不公平感が生じかねない。

(2009/05/04)