産経新聞社

ゆうゆうLife

老いと生きる 漫才師・島田洋七さん(59)(下)


 ■「介護」ではなく「お返し」 明るく接し病人扱い禁物

 義母(86)の介護をサポートするため、佐賀県に移り住んだ漫才師の島田洋七さん(59)は、介護を「少ない恩返しの機会」と言う。介護のコツについては「見えを張らないこと。隠すと苦しくなる」と“伝授”する。(文 佐久間修志)

 お母さんの介護については、おれは家を引っ越したり、バリアフリーにしたり“おぜん立て”はしたけど、介護の役割で大きかったのは「笑わせ役」やね。鼻の穴にたばこを突っ込んで顔を出すと、めっちゃ、笑うてたよ。

 とにかく、病室の中では明るくよ。あと、病人扱いせんことやね。普通の健康な人に言うみたいに「来週、どっかいこ」とか言えばいいねん。「大丈夫?」って言われるの嫌らしいよ。大げさにもしない方がええ。1回、大人数で行ったらびっくりして。「自分は後がないんじゃ」と思うたらしい。

 親を介護するのは、ありがたいことよ。恩返しやから。自分も3歳、4歳までは介護されているようなもんじゃないですか。おしめ変えてもろて、食事作ってもろて。だから、ごく当然。第一、「介護」っちゅう言葉がおれ嫌いやねん。お返しや、お返し。

 もちろん、子育てと違って、老人の世話やから、見通しは明るないよ。でも、それは覚悟せな。そんな飛び回るほどには、ようならへんよ。でも、1日長生きしたら、1日多く親を見られてありがたいなと思うよ。嫁さんが「お母さん、元気だったよ」って言えば、おれもうれしいもん。

 だんなは、嫁はんを励まさな。「オマエはエライ」って。「大変やろ」なんて言わん方がええ。大変なんやから。だからエライとか評価することやな。おれは漫才師やから、言うのは得意やねん。

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 おれは実の母ちゃんと離れて暮らしてたやろ。だから、一緒にいたおばあちゃんには、異常なくらい情があるのよ。だから、お年寄りに対するアレルギーはないよね。

 じいちゃん、ばあちゃんと話すの、おもしろいよ。知らんことも教えてくれるし。嫁さんのお父さんも80歳くらいまで生きてたけど、会うたんびに戦争の話よ。勉強になるわ。ただ、少しずつ話が違ってな。最初は戦車を3台撃破したという話が、死ぬ間際には50台くらいになってた。

 こういう話は、みんなものすごくうれしそうに話すよ。おれも好きやし。

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 おれ、介護のコツで思うのは、人に見えを張るなっちゅうことやね。あと、あそこのお母ちゃんは元気そうでええなとか、人を比較してうらやましく思うなということ。

 見え張ると、「介護なんてしてませーん」っていう素振りするやん。そうやって隠すのが疲れるねん。それより「介護してるよ、大変じゃないよ。おれもいつかはこうなるんだし」っていうのがええ。前向きじゃないとな。

 中学生の講演会に行くと、先生から言われるけど、頭悪いヤツに夢持たせるのが難しいねんて。おれなんか、その点はいい見本。頭良くなくても、アホでも、いい人生が待ってるのを、学校の先生は伝えられないんよ。だから、頭悪いけど、どうしようかって考えすぎるんよ。考えすぎて鬱になることもあるんだから、考えても仕方ないて。

 介護も同じ。暗いと介護される方にも伝染するし。おれなんかいいことしか考えへん。もう、常にバラ色やで。それが介護されている方に伝わるから、どんどん良くなるんじゃないですかね。

(2009/05/06)