産経新聞社

ゆうゆうLife

退院後はどこへ(上)行き場のない高齢者、増加

自室で在宅酸素療法を使う人も。退院後の受け皿不足は深刻だ=東京・山谷の「自立援助ホームふるさとホテル三晃」



 「静養ホームたまゆら」の火災では、都内の生活保護受給者が越境し、無届け施設で暮らす実態が明らかになった。こうした行き場のない高齢者が増える一因として、退院後の受け皿不足が指摘される。東京・山谷のホームレス支援施設では、医療や介護の必要な状態で退院してくる人の入居が長期化し、入居待機者が増加の一途だ。(寺田理恵)

 日雇い労働者が暮らす東京・山谷地区にも高齢化が押し寄せ、車いす利用者や認知症患者が増えている。

 「旅館」「ホテル」と看板を掲げた簡易宿泊所が並ぶ一角。生活保護を受ける小林一郎さん(65)=仮名=は三畳ほどの自室で在宅酸素療法を使いながら暮らす。体に酸素を十分に取り込めないため、鼻孔に着けた管を通して濃縮した酸素を吸入する。

 東北出身の小林さんは「故郷に子供たちを残して出稼ぎに来たまま、蒸発した」といい、「東京とは芋の味が違う」と、古里の秋の風物詩、芋煮会を懐かしむ。「田舎にいる方がいいと思うけど、今さら帰っても、家族に負担をかける」と話す。

 小林さんが暮らすのは、「自立援助ホームふるさとホテル三晃」。ホームレス経験者を支援するNPO法人「自立支援センターふるさとの会」(東京都台東区)が、簡易宿泊所を改装して運営する。生活保護費で払える入居費で、職員が24時間常駐。食事や医師・看護師の指導に基づいた服薬の見守りなどのサポートを行い、必要な人には往診や訪問看護も手配する。

 小林さんは、2年前に救急搬送先の病院で肺気腫と慢性呼吸不全と診断され、都内の福祉事務所の紹介で入居した。訪問看護を利用し、入浴や在宅酸素の管理に援助を受ける。入退院を繰り返しており、1人での生活は困難だ。

 ふるさとの会は、社会的入院をしている人などが民間アパートに移るための一時的な住まいを提供してきた。地域生活につなげる中間施設のはずが、入居が長期化している。在宅酸素や胃瘻(いろう)など、医療や介護を必要とする人が増えたためだ。

 ホテル三晃では、他施設から受け入れたケースの40%を「病院から」が占める。入居者81人(今年1月)のうち、要介護認定を受けた人は57%にのぼる。入居待機者が増え続けているという。

 同会の滝脇憲理事は「病院を急に出されるため、緊急入居も多い。以前は『3カ月後に退院』だったのが、3年前から『1カ月後』になり、『再来週』『来週』『明後日』と次第に短くなっている。従来の福祉施設には適さず、心身の状態と住まいにミスマッチがある」と話す。

 退院後も医療や介護が必要な人には、サービスを組み合わせて手配する支援が必要だ。同会は「たまゆらの悲劇を繰り返さないために、地域のサービスを活用して在宅で支える仕組みを構築すべきだ」とし、老朽アパートの建て替えなどにより、都内に支援付き住宅を増やす取り組みを始めている。

                   ◇

 ■医療費削減で社会的入院減り…

 行き場のない高齢者が増える背景として、退院が促進され、「社会的入院」が減っていることが指摘されている。かつては、入院治療の必要がなくなっても、病院にいられるケースがあった。しかし、医療費を減らすため、10年ほど前から、入院日数が長くなると、病院収入が減る仕組みが導入された。

 急性期や回復期、慢性期など、患者の状態に応じた病院の機能分化が進み、急性期病院では2〜3週間で退院が促されるように。診療報酬は一般に、医療行為が多いほど増える出来高払いだが、急性期病院では、病気によって報酬が定額で決まる「DPC(診断群分類)」を導入する所が増え、より入院が短縮化されている。また、療養病床の削減も、退院後の受け皿不足の一因といわれている。

                   ◇

 ■治療後の生活はお金次第

 退院後の行き場に困るのは、生活保護受給者にかぎらない。入院日数の短縮化で、在宅酸素や胃ろうなどを使う人が退院してくるが、家庭の事情などで在宅が難しいケースは少なくない。

 退院を求められた患者の相談を受ける「サンユウ退院支援センター」(東京)の山田理史(ただし)所長は「仕事で昼間家にいなかったり、老老介護で家でみられないという家族からの相談が多い」と話す。病院を出されて困る事例が都内で多く、半年前に事業を立ち上げた。退院を延ばす交渉のほか、介護老人保健施設(老健)や都心から離れた病院など退院後の行き先探しも行う。

 低所得者でも入れる公的介護施設は、医療の必要な人を敬遠しがち。老健には常勤医がいるが、薬代や常勤医以外にかかる費用が老健の持ち出しとなる。特別養護老人ホームは医師が非常勤の上、看護師の配置が少ないからだ。

 医療ソーシャルワーカーらでつくる「転院問題を考える会」(東京)の安仁屋(あにや)衣子さんは「急性期病院が都心部に多い一方、転院先は郊外を探せばあるが都心部には少ない。そのため、有料老人ホームのニーズが高まっているが、費用を支払える人だけの選択肢。急性期の先のリハビリ、療養、介護がお金次第になっている」と指摘している。

(2009/05/11)