産経新聞社

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地域包括支援センターを知っていますか?(中)

上村さん宅の風呂場を片づける海老原さん=東京都北区


 ■“限界団地”の悲鳴 

 忙しすぎて、困っている世帯を支援しきれない−。そんな悲鳴が、地域包括支援センター(地域包括)の職員から聞こえてくる。特に、低所得層が多かったり、高齢化率が50%を超えた“限界団地”を担当する場合は、悩みも深刻だ。(清水麻子)

 「お天気だから、干しましょうよ」。東京都北区の地域包括の主任ケアマネジャー、海老原澄子さんが、都営団地に住む上村梅子さん(85)=仮名=の風呂場にあった湿った下着類に手を伸ばすと、上村さんは「明日やるからそこに置いておいて」と大声をあげた。

 上村さんは認知症で要介護1。今は独居だが、認知症が進み、対応が難しくなっている。近所の人の力添えだけでは暮らせなくなり、海老原さんが養護老人ホームへの入居を調整中だ。

 しかし、入居には手間がかかる。まず、持ち物を減らさなければならないが、室内は物やごみがあふれ、足の踏み場がない。しかし、掃除サービスを頼む資金はなく、海老原さんは、上村さんの介護サービスを担当するケアマネジャーらと協力して、片づけや掃除をする。ごみが多く、1回の掃除で45リットルのごみ袋が150袋以上にも。

 片づけ中に古い保険証書が出てくれば、上村さんを連れて、郵便局に確認に行く。証書が有効と分かり、保険を解約して配食サービスを頼むよう説得するまで海老原さんは約2時間、上村さんにつきっきりだったという。

 海老原さんが働く「桐ケ丘やまぶき荘地域包括」の担当エリアには、都営桐ケ丘団地など、昭和30年代に入居が始まった2つの大規模団地がある。一部は高齢化率が50%を超える“限界団地”。常勤専門職3人で担当する高齢者は約7500人にのぼる。国の基準(3000〜6000人)を上回る。

 他にも、アルコール依存症の夫に、がん末期の家族がいたり、高齢者狙いの詐欺が相次いだりと、いわゆる「支援困難家庭」が多い。民生委員も高齢化し、大半が70歳以上。海老原さんは「もう限界」と、ため息をついている。

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 ■民生委員も高齢化、半数が人員不足

 社会事業大学が平成20年に各地の地域包括に実施した調査では、「介護予防プラン作成に忙しく、本来業務が十分できない」「専門職の確保困難、人員不足」が、合わせて約半数にのぼった。

 どこの地域包括も人手不足に悩む。東京都北区は今年度、海老原さんが働く地域包括に約360万円、非常勤職員1人分の予算を上乗せした。しかし、海老原さんは「忙しさは根本的に変わらない」という。焼け石に水というわけだ。

 信州大学の井上信宏准教授は、支援困難家庭に特化した対応が必要と指摘する。「団地開発による超高齢化地域では、民生委員の高齢化などで地域の“底力”が欠け、特に、支援困難家庭が増えている。対応に時間が取られるので、こうした家庭への対応を考えず、単に職員を増員しても効果が薄い」と指摘する。井上准教授が高く評価するのは神戸市の取り組みだ。

 神戸市では、市内に約200以上ある震災復興住宅の高齢化率が50%を超えたため、市の一般財源などで地域包括に1〜2人の「見守り推進員」を配置する。見守り推進員には、地域包括に勤務してもらい、支援困難家庭を専門に、ねばり通く見守ってもらう。

 神戸市介護保険課の担当者は「地域包括の職員が、支援困難な家庭に時間を割かれることが減った。様々な方面に支援が行き届くようになり、孤独死の発生が抑えられるなどの効果が出ている」と話す。

 井上准教授は「自治体は限られたお金を上手に使い、地域包括の動きを上手くプランニングしてほしい」と、自治体のアイデアに期待している。

(2009/05/19)