産経新聞社

ゆうゆうLife

地域包括支援センターを知っていますか?(下)


 □丸投げをする自治体

 ■「直営」は4割満たず/しわ寄せは市民に…

 もう少し早くかかわれたら助かる命も多いのに−。各地の地域包括支援センター(地域包括)の職員は、そう口をそろえる。孤独死や虐待を防ぐには、地域包括の職員だけでは難しい。自治体や住民との連携が欠かせないが、地域のセーフティネットを地域包括に“丸投げ”する自治体もあるのが現状だ。(清水麻子)

 「姉が動かないんです。来てくれませんか」。3年前の秋、福井市の地域包括に勤める社会福祉士、有村政江さん=仮名=は市内の団地住まいの高齢男性から電話を受けた。男性には知的障害がある。有村さんは住民の連絡で1週間前に訪問したばかりだったが、全速力で車を走らせた。

 市職員と男性の部屋に入ると、男性の姉がこたつでうなだれるように亡くなっていた。男性は事情が飲み込めないようで、検視でも死因は分からなかった。

 有村さんは「1週間前に初訪問したときは、部屋にごみがたまり、姉弟とも入浴していない形跡だった。姉は認知症に見えたが、『弟と2人暮らしだから大丈夫ですよ』といっていた。その言葉をうのみにしてしまった」と自分を責める。

 しかし、多くの困難事例や介護保険の予防プランづくりに追われながら、1人で支援網を張るのは限界がある。「もう少し早くから、市や地域の方とかかわれていれば。市が動いてくれるのは、何かが起きてからです」と、有村さんはため息をつく。

 こうした支援困難家庭への援助に、自治体の関与が薄いことを批判する声もある。立教大学の高橋紘士教授は「介護保険で解決できない課題に対処するのは本来、自治体の福祉行政の仕事。しかし、このような業務まで地域包括に任せる『丸投げ自治体』もある」と指摘する。

 地域包括が直営か委託かは、自治体がセーフティネットづくりに熱心かどうかの1つの目安だ。厚生労働省の平成20年のまとめでは、地域包括を直営で運営する自治体は4割に満たず、約6割が社会福祉法人などに委託する。

 有村さんが働く福井市も12カ所の地域包括すべてが委託。市は「必要な時にはバックアップしている」と説明するが、同市のNPO法人「高齢者の人権を守る市民の会」事務局の伊東晴美さんは「市のバックアップは足りない。今は地域包括の人手不足も放置され、しわ寄せが市民にいっている」と批判する。

 委託運営を改める自治体もある。東京都武蔵野市は今年7月、委託の地域包括を再編し、市役所内に直営の地域包括を設ける。市の担当者は「市民のセーフティーネットとして地域包括を強化するには、直営が必要。委託では、虐待の立ち入り調査権もない。直営にすることで悲劇は減るはず」と期待をかける。

 ただ、委託でも、自治体が事業者に積極的に関与し、うまく運営するところもある。福島県いわき市は7つの地域包括を1つのNPO法人に委託する。数年間は市の職員を配置し、気になる家庭を記したマップを作るよう促し、住民との連携を求める。市の担当者は「委託でも自治体機能は十分果たせる」とする。

 高橋教授は「地域包括の充実には費用がかかるが、生活困難な家庭を減らし、元気高齢者を増やせれば、介護保険料を含め、市のコストも抑えられる。地域にあった方法で地域包括を強化してほしい」と話している。

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 ■“目安”は運営協議会

 自治体が、地域包括の運営に熱心かどうかは、「運営協議会」の開催数からも見て取れる。厚生労働省労健局振興課は「運営協議会は、地域包括をどう使うかを議論する町作りのツール。自治体は積極的に活用してほしい」と話す。

 しかし、1年に1〜3回にとどまる自治体が圧倒的に多い。しかも、議題のトップは「事業計画書と収入予算書等の確認」で、「全く発展性がない場」(関東地方の自治体関係者)との声もある。

(2009/05/20)