産経新聞社

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編集部から 「お世話される」人から「お世話する」人に

 社会に適応できずに孤立し、破滅に向かう人が後を絶たない。取材で出会った石川県津幡町地域包括支援センターの社会福祉士、寺本紀子さんの体験談が、支援のヒントになるかもしれないので紹介したい。

 寺本さんが支援した1人に、幼いころ義母から虐待を受けた60代の女性がいたという。借金を抱え、子供とも不和で、住まいにはごみがあふれ、“負の連鎖”から脱却できない。周囲から「変な人」「かかわらない方がいい」などと疎まれていた。地域で孤立し、悩みを相談する相手もおらず、社会から排除されていた。

 こうした人には、さまざまな福祉施策を提供するのが通常のソーシャルワークだ。しかし、寺本さんは女性に福祉支援を提供するだけでなく、もう一つの役割を与えた。地域を支える側になってもらったのだ。

 小さなお手伝いをしてもらうことから始め、「地域の1人暮らし高齢者の暮らしぶり」と題したボランティア向け講座の講師役を務めてもらったり、散歩という趣味を生かして地域の見守り役になってもらったり。女性は徐々にやりがいを感じるようになり、地域にとけ込んでいったという。

 「お世話される」人の立場を、あえて「お世話する」方に逆転させるこの取り組みは、有効なソーシャルワークとして注目されている。ぜひ、全国に広がってほしい。(清水麻子)

(2009/05/22)