産経新聞社

ゆうゆうLife

年金質問箱 老齢基礎年金の繰り下げ



 □遺族年金の発生

 ■受給権が生じた時点で繰り下げはできず

 老齢基礎年金の受給は原則65歳から。希望すれば、受け取りを遅らせる「繰り下げ」ができ、年金額を増やせる。しかし、繰り下げを待つ間に夫などが亡くなり、遺族年金の受給権ができると、繰り下げはできなくなる。女性の場合、繰り下げを待つ途中で遺族厚生年金の受給権が生じるケースが少なくないので覚えておきたい。(寺田理恵)

 東京都の緒方恵子さん(76)=仮名=は、6年たってもふに落ちないことがある。

 国民年金の老齢基礎年金を増やすために受給を繰り下げたつもりが、70歳で請求すると「途中で遺族年金を受給したので、繰り下げできない」と言われたのだ。夫を亡くして遺族厚生年金を受け始めたのは平成12年、67歳のとき。それなのに、基礎年金の額は65歳から受給した場合と同じになってしまった。

 緒方さんは昭和8年生まれ。サラリーマンの妻が任意加入だったころから国民年金に加入し、国民年金に上乗せする付加年金の保険料も納付していた。国民年金の老齢基礎年金と付加年金を合わせると、年金額は90万円近い。70歳で受給できれば、受給率は188%だから、効果は大きかったはずだ。

 「夫が亡くなるまでの2年間の繰り下げも、認められないのでしょうか。仮に70歳目前で遺族になっても同じですか。この疑問が、いつも頭をよぎります。今更とは思いますが、元気なうちに納得のいく答えがほしいのです」と話す。

                □ ■ □

 基礎年金は66〜70歳まで待って受け取ると、受給額が増える。

 現在の制度では、緒方さんが考えるように、遺族厚生年金の受給権が発生するまでは繰り下げできる。

 ただし、66歳までに遺族年金や障害年金の受給権者だった場合は、繰り下げができない。66歳以後に遺族年金などの受給権が生じたら、その時点まで繰り下げるか、基礎年金を65歳にさかのぼって請求することもできる。

 しかし、平成16年度までは、繰り下げ受給を待つ間に、夫が亡くなるなどで遺族厚生年金の受給権が生じたら、繰り下げ自体ができなかった。基礎年金の額は、65歳から受給した場合と同額。受け取りを待っていた間の年金を一括して受け取るため、緒方さんも65歳で受け取る年金額を5年分まとめて受け取った。

 緒方さんは「社会保険事務所で遺族年金を受給する手続きをしたときは、とくに注意喚起はありませんでした。市役所でも『繰り下げても大丈夫』といわれたので、受け取りを我慢したのに」と、関係機関の対応に疑問が残る。

 社会保険労務士の井戸美枝さんは「繰り下げでよくある誤解の一つが、老齢年金以外の年金を受給する場合にどうなるか。老齢年金と違い、遺族年金や障害年金は、生活に困らないようにという保障の意味合いが強い。受け取ると、基礎年金の繰り下げはできなくなります。繰り下げる方は女性が多く、遺族年金を受けるのも、ほとんどが女性。繰り下げ受給を待つ間に、遺族厚生年金の受給権が生じるケースは少なくありません」と話している。

(2009/05/22)