産経新聞社

ゆうゆうLife

遠縁の死 その後の手続きと相続(上)

葬儀会社から梶田さんに送られてきた葬儀代金請求書。お布施代なども含め、急に80万円もの出費を余儀なくされた



 □葬儀は誰が…!?

 ■権限なく身動きとれず

 突然亡くなった高齢者に近親の身寄りがない場合、遠縁の親戚(しんせき)にまで葬儀などの“事後処理”が降りかかる場合がある。ただ、遠縁では死後の事務手続きの権限をふるえないことが多いのも事実。ある家族の経験を基に、こうしたケースでの対処を考える。(佐久間修志)

 「すぐに来てください」。千葉県に住む梶田洋介さん(35)=仮名=が、東京都内の病院から連絡を受けたのは今年3月。聞くと、同居する祖父のいとこに当たる女性(84)が亡くなったという。

 女性は1人暮らし。入浴中の事故で亡くなったらしい。遺体は警察署に安置されていた。梶田さん宅に連絡があったのは、女性が病院に登録していた「緊急連絡先」が梶田さんの祖父になっていたためだ。

 梶田さんが祖父に聞くと、女性の近所に身寄りはない。兄がいるらしいが、今は疎遠で連絡がつかないという。「もしかして、ウチで葬儀を出さなければいけないの?」。梶田さんは途方に暮れた。

 他に女性の親族はいないのか−。梶田さんは戸籍を調べるため、役所に女性の住民票の写しを求めた。だが、役所の担当者は「もっと近い親族でなければ出せません」。行き詰まった。

 さらに、葬儀会社からは「ご遺体が傷むので、早めに荼毘(だび)に付したほうが」と、半ばせっつかれた。結局、自腹を切って葬儀を執り行った。式典は極力、簡素化したが、寺へのお布施も含め、費用は約80万円かかった。

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 「自分の死後、身の回りの整理をどうしたらいいか心配する高齢者が増えている」。こう指摘するのは、「『老い』に備える」(文春文庫)の著者で、老後のトラブル解決に詳しい中山二基子弁護士。1人暮らしの高齢者が増えていることが背景という。

 国勢調査によると、単身の高齢者は、平成7年の220万世帯から17年には386万世帯と、10年間で1・7倍に急増。“予備軍”である「高齢者のいる夫婦のみの世帯」もこの期間で304万世帯から478万世帯になった。

 こうした中、梶田さんのようなトラブルはまま起こりうる。現実問題として、死後の手続きは近親者にしか行えないことが多い。死亡時に不可欠な死亡届の提出でさえ19年の戸籍法改正まで、親族以外は同居者や家主にしか認められていなかった。

 諸手続に必要となる戸籍謄本も原則、配偶者や直系血族が生きていれば、遠縁者はそちらを通じて請求するしかない。もちろん、連絡先が分からなければ身動きがとれない。法務省は「事情にもよるが、個人情報保護の観点から戸籍は誰にでも公開できる情報ではないため」と説明する。

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 中山弁護士は「梶田さんのケースは、亡くなった女性が死後の事務委任契約をしていれば、問題を回避できた」と指摘する。賃貸アパートの解約や部屋の後片づけ、葬儀の仕切りにいたるまで、死後の後始末を契約で依頼するのだ。

 「契約」のため、双方が了承さえすれば、誰とでも結ぶことができ、拘束力もある。ちなみに遺言で死後の事務を頼んでいても拘束力はなく、完全に遂行されるか不透明という。

 委任契約書は、日付や印章など契約書式として最低限の体裁が整っていれば、「文面は依頼する項目と費用の額と出所が明記されていればいい」(中山弁護士)。最近は任意後見契約書の中に、死後の事務委任の条項を盛り込む例も増えているという。

 梶田さんのように、「血筋が遠くても放ってはおけない」という人は多い。中山弁護士は「“契約”というとドライな響きがあるが、残された人が困らないよう準備してほしい」と話す。

(2009/05/27)