産経新聞社

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遠縁の死 その後の手続きと相続(下)



 □相続財産の分与は…!?

 ■決め手は有効な遺言書

 血縁の遠い親戚(しんせき)が亡くなっても相続人は法律で決められており、それ以外は遺言がなければ遺産は受け取れない。ただし、ほかに相続人がいないことが確認できれば、遺産を受けとれる場合がある。遠縁に対する相続財産の分与について解説する。(佐久間修志)

 遠縁の女性が亡くなったことで、女性の葬儀費用を負担した千葉県の梶田洋介さん(35)=仮名=の誤算は、女性が残した書き置きが「遺言書」とはみなされなかったことだ。

 女性は預貯金や株式のほかにも、自宅マンションなど相当額の遺産を残していた。見つかった書き置きには遺産の使途について、自身の「永代供養代」と梶田さんの祖父に数百万円を譲る旨が明記されていた。

 梶田さんは書き置きを見つけ、ひと安心。数百万円なら葬儀費用を差し引いてもおつりがくる。早速、書き置きを持って、弁護士事務所の門をたたいた。

 ところが、弁護士は書き置きを見るなり、「遺言にはなりません」。書き置きは女性の自筆で、日付も書かれていたが、肝心の印章が押されていなかった。女性と祖父はいとこ同士のため、法定相続権はない。

 呆然(ぼうぜん)とする梶田さんに弁護士は「相続人が全くいなければ、遺産を受け取れるかもしれない」と助け舟を出した。条件として、「他に相続人となる親族がいないことが前提で、それを確定させなければいけない」という。

 直系家族でないため女性の戸籍謄本を取れない梶田さんが、女性の相続人がいないことを証明するには弁護士に調査を依頼するしかない。だが、それはさらなる出費だ。

 「相続人が見つかっても、葬儀代を請求する権利はあります」とも説明されたが、疎遠にしていた親族にお金を請求するのは気が引けた。梶田さんは即答できず、「また、相談に来ます」と話して法律事務所を後にした。

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 亡くなった人の遺産がどう分けられるかは、有効な「遺言書」がある場合とない場合で大きく異なる。

 遺言書が有効ならば、遺産は原則、遺言通りに執行される。遺言書が無効の場合は、遺産は「法定相続人」の間で話し合いで分ける。民法では、法定相続人の範囲が定められており、遠縁の場合は遺産を受け取ることはできない。

 また、法定相続人が見つからない場合、遺産は原則として国庫に帰属するが、亡くなった人の介護をしたなど、故人と特別なかかわりを持つ人は「特別縁故者」とされ、遺産を受け取れる場合がある。

 この場合、亡くなった人の利害関係者や検察官の申し立てで家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任。調査後、最終的に相続人がいないことが決まったら、特別縁故者が3カ月以内に財産分与を請求できる。家裁で相当と認められれば遺産が分与される。

 梶田さんは女性の葬儀を出しているほか、祖父は定期的に女性に食料品を送るなど、生前に女性の生活を援助していた。相続に詳しい中山二基子弁護士は「梶田さん、祖父ともに特別縁故者として認められる可能性がある」と話す。

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 死後の事務手続きと同様、中山弁護士が相続で重視するのは「遺言を書くことと執行者を定めておくこと」だ。たとえ遺言が有効でも、執行者を定めておかないと遺言を実現するのに難航する例もある。

 また、せっかく遺言を書いても、書式として必要な日付の記入を忘れたり、相続する土地の番地を間違ったりしたために効力が生じないケースも。遺言書の作成も独りよがりにならないよう、専門家の助言を受けていれば安心だ。

 遠縁の人は、死後の手続き、相続といずれも権限のない立場にさらされることが多い。中山弁護士は「単身高齢者が遠縁に死後のことを頼もうと思うなら、事務委任契約と遺言の両方で備えておけば安心。死後のことが気になるならば労を惜しまず、早めの準備を」とアドバイスする。

(2009/05/28)