産経新聞社

ゆうゆうLife

病と生きる 漫画家・一条ゆかりさん


 ■緑内障で右目の視野欠損 老眼と放置、診断遅れる

 漫画家の一条ゆかりさん(59)は5年前、緑内障と診断された。右目はかなり視野が欠けた状態で、手描きした絵をパソコンで拡大することで、これまで通り仕事を続けている。「緑内障になったことでパソコンで絵が描けるようになった」と笑い飛ばす。緑内障の治療には早期発見が何より大切なことを知り、“アラフォー世代”に年に一度の眼科検診を呼びかける。(平沢裕子)

 実は10年前、10歳上で近所に住む姉に「うちは眼圧が高い家系でおばあちゃんも緑内障だった。あなたも危ないから一度調べなさい」と言われ、眼科で検査をしたんです。そのとき、「眼圧が少し高いですね」と言われたのですが、「あ、高いんですか。でも仕方ないよね」としか思わなかった。というのも、子供のときに2・0あった視力が漫画家になって0・4にまで落ちたり、乱視や老眼、飛蚊(ひぶん)症もあったりして、緑内障まで考えつきませんでした。

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 検査の後、目薬をもらって「なくなったらまた来てください」と言われましたが、それっきりになっていました。それが5年前、仕事場の壁に張ってある視力検査表で目のチェックをしたら、右と左で暗さが全く違っていた。40ワットと100ワットぐらいの差があったんです。次の日に病院に行ったら、医師に「(緑内障の)ほとんど中期です。眼圧がとても高いので、急いで下げる必要があります」と言われ、その日のうちにレーザーで目に穴を開ける手術をしました。

 家に帰ってから姉に「緑内障になっちゃった」と電話をしたら、姉は「あらま、そうなの。私は大丈夫よ」と勝ち誇ったように言われました。10年前の検査で姉も私と同じ状態だったのですが、姉はもらった目薬をまじめに使って、定期的に眼科に通っていた。姉の視野は今も何一つ欠けてないそうです。5年間何もしなかった私は見事な緑内障になっちゃった。

 今思えば、7年ぐらい前から症状はあったんです。見えにくくて漫画が描きにくかったのですが、老眼のせいだと思っていた。老眼鏡を新しくすると見えるようになるけど、すぐまた見えにくくなる。「老眼ってこんなに早く進むんだ。転がり落ちるように見えなくなるのね。怖いわ〜」と思ってました。

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 緑内障と聞いても、特にショックはありませんでした。むしろ老眼と言われたときの方がショックだった。それと禁煙しなければいけないと知ったとき。緑内障と診断されてからもしばらくは吸ってたんです。

 たまたまダイエットしようとマクロビオティック(玄米などを主食とする食事療法)を始めて禁煙したことがあって、お医者さんに「今禁煙してるんですよ」と言ったら、「え、吸ってたの? 緑内障は他の制限はないけど、たばこだけはだめなんだよね」と言われ、結局、そのまま止めました。

 仕事の量は前と変わってません。ただ、前より仕上げるのに時間がかかるようになった。漫画の主要な登場人物は全部自分で描いてますが、手描きしたものをパソコンに取り入れて、拡大して修正し、仕上げています。

 困るのは、新聞や本が読みづらいこと。特に情報誌が読めないのがつらい。あと、レストランのメニューも見づらいので、一緒に行った人に読み上げてもらってます。

 でも、視野欠損は5年前からあまり変わってないようです。医師のもとでちゃんと治療すれば、症状はそれほど進まないみたい。緑内障は症状が進んでいない早期に見つければ、そのままの視野を保てる可能性が高い。だから40歳以上の人はぜひ1年に1回の検査をおすすめします。

 よく「緑内障のことを漫画にしたら」といわれるんですが、嫌ですね。ダイエット漫画なら描きやすいですけど…。漫画は、今、自分が興味のあるもの、おもしろいと思うものを描いていきたいんです。

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【プロフィル】一条ゆかり

 いちじょう・ゆかり 昭和24年、岡山県玉野市生まれ。高校時代に第1回りぼん新人漫画賞で準入選し、43年に受賞作の「雪のセレナーデ」でデビュー。漫画の代表作に「デザイナー」「砂の城」「有閑倶楽部」など。また、エッセーに「恋愛少女漫画家」「正しい欲望のススメ」など。現在、漫画誌コーラスでオペラの世界を描いた「プライド」を連載中。

(2009/06/26)