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人気の高齢者専用賃貸住宅

生活援助員(LSA)から安否確認を受けるシルバーハウジングの入居者(右)。LSAは独り暮らし高齢者にとって心強い味方だが、24時間常駐しているわけではない=横浜市の「不老町住宅」


 ■居住環境は良いけど… 職員常駐せず「不安な夜」

 近年、独り暮らしの高齢者の居場所として高齢者専用賃貸住宅(高専賃)が人気だ。有料老人ホームなどの施設に比べて部屋が広いなど居住環境が良く、生活の質を重視する団塊世代からも注目を集める。一方で、こうした住宅の大半は職員が常駐せず、特に夜間は緊急通報装置という機械が“命綱”になる。施設に比べ、安心機能は劣る点についても十分理解したうえで入居したい。(清水麻子)

 6月上旬の夜9時過ぎのことだ。関東圏にある高齢者専用賃貸住宅に住む60代の杉田敏子さん=仮名=は、居室内でバランスを崩して車いすから転げ落ちてしまった。

 しかし、併設のケアステーションはすでに閉まっており、唯一の“命綱”は、ベッドわきの緊急通報ボタン。押せば警備員が駆けつけるが、半身不随で自力ではたどり着けなかった。杉田さんは大声で助けを求めたが、誰も来てくれない。周囲は耳の遠い独り暮らしの高齢者ばかりなのだ。

 数時間後、同じフロアの入居者の家族が通りかかり、住宅内にあるケアステーションの職員に電話をしてくれた。約20分後、杉田さんの鍵を持った職員が自宅から駆けつけ、救助された。

 しかし、杉田さんを発見した入居者の家族は「たまたま母に用事があって訪れたから発見できた。自分の母も、と思うと怖くなった。パンフレットでは安心をうたっているのに、夜間に無人になるのは変だ」と首をかしげる。

 高齢者の住まいに詳しい介護情報館(東京都港区)の中村寿美子館長は「高専賃は、基本的に自立して生活できる高齢者が入る場所だが、最近は身体が不自由な方の入居も増えている。しかし、施設ではなく、あくまでも『家』なので、身体の不自由な方にとって安心度は低い」と話す。

 24時間、職員や警備員が常駐する高専賃はほとんどない。そもそも緊急通報装置すら完備していない所もある。「高専賃は、民間住宅に申し込んでも入居を断られがちな高齢者が円滑に入居できる目的で整備され、さまざまな安心機能が加わる形で全国に広がってきた。安心機能がなくても高専賃として認可されるのが実情だ」と中村館長。

 一方、低所得などの一定の入居条件を満たす60歳以上の自立した高齢者が入居できる公的賃貸住宅であるシルバーハウジングでも、同じような事故が時々発生している。

 6月下旬、横浜市内のシルバーハウジングで、入居者が12時間動いた形跡がないときに警備員が駆けつける「生活センサー」の信号が、中央の集合監視盤に届かず、70代女性が室内で病死する事故が起きた。女性は持病を持っていた。

 異常を知らせる室内ブザーと玄関前の点滅灯はついていたが、週に2回、半日だけ通ってくる生活援助員(LSA)の不在時だった。「LSA派遣の予算が年々減り、マンパワーの不足を機械で補っているのが実情」(横浜市住宅管理課)という。

 中村館長は「こうした住宅に介護が必要な高齢者が入居する場合も増え、今後も事故や孤独死が起こることが予想される。高専賃にはこのほか、医療的ケアが必要になった場合に住めなくなる可能性が出てくるデメリットがある。部屋が広いなどのメリットがある一方、こうしたデメリットも知ったうえで入居を決めてほしい」と話す。

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 ■事故を防ぐには 近隣同士の人間関係大事

 こうした事故を防ぐには、どうしたら良いのだろうか。

 横浜市内のシルバーハウジング「不老町住宅」を管理する横浜市不老町地域ケアプラザの三枝公一所長は、「機械は壊れることがある、人はミスをすることがある。必ずどこかで抜け落ちる部分があるのだから、そこを補えるのは入居者の意識」と話す。

 同住宅の入居者の大半は病院通いが必要なものの健康な高齢者。そのため、必ずしも緊急時への意識は高くはないという。各居室内には4種類の緊急通報装置があり、そのうち1つは、持ち歩けるペンダント式だが、首からかけるのを嫌がり、壁にぶらさげておく人が大半だという。

 三枝所長は「何事も緊急時になってみなければ実感はわかないものだが、ペンダントは自分を守ってくれるものだと意識して常に身近に持っていてほしい。また、いざというとき助け合えるよう、普段から近隣同士がいい関係を築いておいても良い。『わずらわしさ』と『安全』とは表裏一体だと知ってもらいたい」と話している。

(2009/07/09)