産経新聞社

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重度者が在宅で過ごすには

アイコンタクトと、ひらがな五十音一覧表を指さして意思疎通する利用者=横浜市の青葉区メディカルセンター



 ■伸び悩む医療型デイ

 胃ろうやたん吸引など、医療行為が必要な在宅の重度要介護者は増えているのに、通所介護(デイサービス)は断られがち。3年前には重度者の在宅の支えとして、いわば医療型デイ「療養通所介護」が始まった。しかし、その数は全国約60カ所と伸び悩んでいる。(佐藤好美)

 横浜市に住む自営業、葉山美智子さん(54)=仮名=は、夫の昭さん(57)=同=を在宅で介護する。昭さんは要介護5。8年前に難病を患い、いつまひが起きるか分からない。胃に直接、栄養を送る「胃ろう」の管理と頻回のたん吸引が必要で、目を離せない。

 施設などに預けることも考えたが、療養病床には納得がいかず、有料老人ホームは高すぎた。短期入所(ショートステイ)も受け入れてはくれず、美智子さんは「家族で最後まで看(み)たい」と在宅を決めた。

 在宅の支えは、療養通所介護「青葉区メディカルセンター」。昭さんは週に2日、送迎を受けてセンターに通う。自然光がたっぷり入る室内で、入浴、たん吸引、胃ろうの管理、排便コントロールなどを受けて過ごす。この日は6人の利用者に、スタッフは看護師2人と介護士3人。胃ろうや気管切開が施されている人は、通常のデイでは断られがちだが、ここでは看護師が対応する。

 管理者の岩間慶子さんは「重度の人は、自宅では介護力の問題から寝かせきりにせざるを得ないが、ここでは車椅子(いす)への移乗を試みてコンビニエンスストアに行ったり、散歩もしたりする。長時間かかわることで目の輝きが戻ったり、発声のなかった人が言葉を発したり、こんな機能が残っていたんだ、と発見することも多い」と話す。

 利用者負担は、介護保険の適用で日に約1500円(1割分)。ただ、定員や利用者の身体負担などから、連日の利用は難しい。美智子さんには仕事があるため、昭さんが在宅の日はヘルパーを頼む。しかし、介護保険の事業所には「たん吸引はしていない」と、断られた。結局、自費のヘルパーに頼る。美智子さんの目には、介護保険は重い人の十分な助けになっていないように映る。

 「普通のデイは軽い人がほとんど。訪問介護のヘルパーは助けてくれない。私は自費でヘルパーを頼めるだけ恵まれている。重度要介護者を受け入れるデイが増えないと、家族は救われません」と、美智子さんは訴える。

 別の50代女性は、80代で要介護5の母親を週2日、センターに預ける。3年前、難病の母親に胃ろうが必要になって入院させたら、大腸がんが見つかった。手術して人工肛門(ストマ)を設置。退院すると、ストマの器具交換やケア、日に数十回のたん吸引に追われる日々が始まった。

 ヘルパーはたん吸引や胃ろうの管理はしてくれず、結局、自身がつきっきりになり、食事や入浴も二の次になった。

 そんなとき、青葉区に療養通所介護が開かれると知った。すがるように電話し、利用可能かを聞いたら、こう言われた。「ここは、大変な人を受け入れるところだから、大丈夫。一番に入れるようにしておくから。ストマの器具がはがれてウンチまみれになっても、あとは私たちがするから心配しなくていいよ」。

 その返事を聞いて泣いた。女性は言う。「明日は休めると思えれば、今日はがんばれる。余力ができたら喫茶店に行けると思えるだけで、乗り切っていけます」

                   ◇

 ■規模の小ささがネック

 2例はいずれも難病患者だが、療養通所介護は、医療と介護が必要な脳血管障害や呼吸器障害、がん末期などの人が利用できる。日本訪問看護振興財団が行った調査では、利用者の6割が要介護5。一般の通所介護では「医療的ケア」が利用の“壁”になっていたことが分かった。

 同財団の佐藤美穂子常務理事は「通常のデイサービスは医療ニーズの高い人を積極的には受け入れないが、医療ニーズのある在宅要介護者は今後、もっと増える。厚生労働省が『慢性疾患は在宅で』というなら、受け皿が必要だ」と指摘する。

 しかし、平成18年に介護保険サービスとして始まった療養通所介護は全国で64カ所にとどまる。佐藤常務理事は「療養通所介護は定員8人と規模が小さく、スケールメリットがない。しかし、通常のデイにつく入浴加算などはない。重度の人が対象だけに、とりわけ人手と神経を使う送迎も含めて、加算をつけてほしい」と話している。

(2009/07/16)