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春風亭栄枝の洋楽で一席
「寿限無」とC.C.R
C.C.R. クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル [BEST OF] 落語家の名前は師匠からいただきます。入門して初めて芸名をもらうのは、うれしいもの。

覚えらやすいようにとユニークな名前をつけられる場合もあります。初雪家こんこん、とか。あるいは「円」の字がつく師匠なら1字もらって「円どう豆」とか「円ぴつ」とか…。

私の仲の良い落語家が柳家とんぼと名乗っていたころのこと。仕事で出かけた先の町長が「この町の町長です」と挨拶にきた。すかさず彼は「私がトンボです」。チョウチョとトンボがご挨拶。

落語の登場人物にもユニークな名前は多い。武士なら「鍋之蓋取っ太之助(なべのふた・とったのすけ)」「石垣蟹太夫(いしがき・かにだゆう)」。医師なら「甘井羊羹(あまい・ようかん)」「藪井竹庵(やぶい・ちくあん)」。殿様になると「赤井御門之守(あかい・ごもんのかみ)」…。

一番長い名前がご存じの寿限無。赤ん坊に名前をつけてもらおうと父親が近くの寺の和尚さんに頼んだところ、おめでたづくしの長い名前「寿限無、寿限無、五劫の擦り切れ、海砂利水魚の…」に…。

寿限無は長い長い名前を何度も口にするから前座の口慣らしによい。というわけで、稽古話噺として伝わっているもの。特段の題名がある噺ではないのです。入門するとすぐに師匠に教えてもらい、正月などおめでたい席でよくやります。たいてい自分流にアレンジ。私も寿限無がやがて選挙に出て名前を連呼したり、長すぎて投票用紙にだれも書いてくれなかったり…とやってみたことが。

この寿限無ちゃん、小学校の教材に採用されたり、寿限無コンクールが開かれたりと最近、子供に大人気になっているようで、このごろは子供さんが落語家より先に「寿限無、寿限無…」とやりだすので、やりにくいときもあります。

洋楽の世界にも長い名前はありまして、思い出深いのはクリーデンス・クリアウォーター・リバイバル。長いもんだからC.C.Rと略されることのが多い。まさしく本物のアメリカンロック・バンド。ジョン・フォガティのボーカルが実にいい。

初めてC.C.Rを聴いたのは、ラジオから流れてきた「プラウド・メアリー」でしたか。とても新鮮だった。その泥臭い感触に「やっぱりロックは理論、理屈じゃない」なんて思ったものでした。「雨を見たかい」は、このごろでもテレビCMなどでよく使われています。ここで歌われている「晴れた日に降る雨」…ってのは、ナパーム弾のこと。実はこれは反戦歌なんですね。

寄席で、お目当ての師匠が出てくると、ついかけ声をかけたくなりますが、たとえば彼らの「スージーQ」を聴くと「待ってました、C.C.R!」なんて言ってしまいます。



落語を題材にしたテレビドラマ「タイガー&ドラゴン」の影響で寄席に若い人たちが行くようになったり、あるいは子供たちの間で「寿限無」をそらんじることが人気になったりと、落語が静かなブームになっているとか。そんな中、ENAKでは春風亭栄枝師匠の音楽コラムを始めます。栄枝師匠はとなにしろ三度の飯より四度の落語より洋楽が好きといういささか困った真打ちなのではありますが、さすがの軽妙な筆で、落語と洋楽について書いていきます。毎月半ばごろ掲載予定です。
information
(1)「牡丹灯籠」とKiss
(2)「寿限無」とC.C.R



profile
しゅんぷうてい・えいし
落語家

東京都豊島区出身。
昭和32年3月 京華高等学校卒業
昭和32年10月 8代目春風亭柳枝に入門
昭和34年12月 同師匠没後8代目林家正蔵に移門「林家枝二」
昭和35年8月 二つ目昇進
昭和48年3月 真打ち昇進
昭和57年1月 師匠彦六(正蔵改め)死去
昭和58年7月 7代目春風亭栄枝を襲名

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