産経新聞ENAK 2月号
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阿川泰子という人生の第二幕
ジャズ歌手の阿川泰子が「ティアラ」「アンクレット」という2枚の新作CDを同時に発表した。レコード会社の日本クラウンが新設したレーベル「アーガイル・レコード」に移籍し、同レーベルが放つ最初の新作になる。実はレコード会社が変わっただけではなく、周辺環境のすべてが変わったのだという。「人生という舞台の第二幕が始まったの」。女優から歌手に転身した阿川は、そう表現する。この2枚の新作は、第二幕の開幕ベル。幕間に何があったのか。阿川に聞いた。

ふるさとに戻る
ともかく、変化のうねりは、ものすごい勢いとなって押し寄せてきたのだという。

振り返れば、昨年5月、都内のマンションから神奈川・鎌倉の一軒家に引っ越したこが始まりだった。深夜に及ぶ仕事の都合もあるし、もしかしたら六本木あたりで夜を喧噪のうちに過ごすのが好きだったのかもしれないが、いずれにしても都内以外に住まいをもつつもりなどなかった。

阿川泰子ところが鎌倉に住んでいた知人のイタリア人女性が帰国することになり、そこに暮らせと勧められた。実は鎌倉は阿川にとってふるさとだった。強い勧めに、鎌倉住まいを決めた。今年で三回忌になる母親の仏壇も置いた。期せずしてふるさとに戻った。

鎌倉に暮らし始めると、自分が日本人であることに気づかされた。都内で暮らしていたときにはなかった庭を見て、すてきだなと思った。スイセンもカキツバタもすてきだな。正月になれば千両、万両の赤い実がきれいだな。

「ふるさとの家や街のよさが、大人になって初めて分かった。もしかしたら、それが大人になるっていうことなのかもしれない」

自分の原点に戻る
日本クラウンの新レーベル「アーガイル・レコーズ」から作品を出すことが決まったのも同じころだった。阿川といえば昭和53年のデビューから長らくビクター・エンターテインメントから作品を発表し続けた。ネクタイ族のアイドルという“勲章”をもらったのはビクター時代のアルバム「サングロウ」(55年)が大ヒットしたころだった。そのつきあいは20年に及んだが、平成13年日本コロムビア(現コロムビア・エンターテインメント)に移籍。結局、企業としてのコロムビアの激変に伴って日本クラウンへとさらに移った。

阿川泰子 アーガイルという名前は阿川がつけた。「阿川がいるから、アガワイル、アーガイル」と笑う。同時にアーガイルチェック(argyle check)からとった。菱形の格子の上に斜め格子を重ねた柄で、日本クラウンのクラウン=王冠から連想したものだ。さらに王冠からの連想でアルバム題名もティアラ=宝石をちりばめた冠形の髪飾り、アンクレット=足首の飾り物にした。

「ティアラ」は、「ダニー・ボーイ」など、歌手になる以前の愛唱歌を選んで録音した。

「私自身の記憶の記録。鎌倉や横須賀の人は米国人との交流もあったから、ああいうスタンダード曲をなんとなく歌えたのよ」

「ダニー・ボーイ」は阿川にとって最初に覚えた英語の歌であり、女優時代に歌手として見いだしてくれたジャズクラリネット奏者の故鈴木章治氏の前で最初に聴かせた歌でもあった。

全編新進のピアノ奏者、秋田慎治とのデュオ。「ふたり芝居ね」と、また女優らしい解説。秋田の透明な伴奏との相性は抜群で、“ふたり芝居”で紡がれる音楽は聴く人の気持ちに清水のようにしみこんでくる。

「アンクレット」は、阿川がかつてステージで使用したスコア(総譜)を、後世に伝える記録を企図して録音した。ピアノ奏者の故鈴木宏昌らのペンによるスコアで豪華な伴奏がつけられている。こちらは華やかな雰囲気に満ちている。

「このすばらしい編曲の譜面を残すのも私の役ではないかと考えました。こちらは、私のひとり芝居。いろんな人たち(編曲家)とのいろんな恋のオムニバス」

自らの足跡を訪ね、新しい世界に提示してみせたのが2作の新作。さらに奇しくも、両方とも古巣であるビクターの録音スタジオで吹き込んだ。デビュー作「ヤスコ、ラブバード」を録音したのと同じ場所だった。

阿川泰子 ふるさとに戻り、自分自身をみつめた阿川は、残すことを強く意識し始めているのだ。

「アーガイル・レーベルのロゴマークは、スコットランドの古代文字なんですけど、日本の筆文字に通じるものがあるでしょ。欧州と京都も通じるところがある。先人が守ってきたものを、こんどは私たちが守る番なんじゃないかと思うの。昔は米ロサンゼルスに録音に行くと、あちらの人たちがいろいろと案内してくれたものだけど、こんどは若い演奏家たちを日本に迎え入れて、私が日本を紹介する。鎌倉の自宅をそういうゲストハウスとして機能させてもいいし」

ついでながら所属事務所の場所も東京タワーのそばから品川へと移転した。

「昔のあのあたり、六本木へと続く道はとても素敵な場所だったけど、六本木ヒルズができてから周辺は様変わりしちゃった。六本木ヒルズもいいんだけど、私たちの知っている六本木ではないの。品川だったら鎌倉から電車で1本だし、ちょうどいいわ」

お楽しみはこれからだ
ともかく、公私ともに環境が一変し、いろいろと考えるようになった。

「たとえば米中枢同時テロ以後、私にとって米国はすてきじゃなくなっちゃった。ロサンゼルスもハリウッドも色あせた。そうしたらアジアがすてきに見えてきて、偶然にも大きな力がアジアのほうに向かっている気配もある。ちょうど、そんなときにジャズを歌っている日本人としての自分を見つめ直す機会を得たというのかしら」

そもそも、歌うってどういことなのか、も考えた。

阿川泰子 「私は歌をきちんと習ったわけじゃない。でも、演じることは好き。たぶん、私の歌の中にある演劇のような要素がこれまで支持されてきたんだと考えています。そして、たぶん、それが私が生まれてきて果たす役目なのでは。わからないですよ、本当のはことは死ぬ直前に気づくっていうふうにうまくできているのかもしれないけれど」

ともかく第二幕の始まりだというのである。

「上手にシーンが変わって、ここは鎌倉…というところから始まるのよ」

シックなグレーのスーツにあでやかな笑顔。そんな容姿には不似合いの、キッパリとした物言い。この“調和のとれた不均衡”こそが、この人の魅力だ。そして歌声は、ネクタイ族のアイドル時代から変わらぬシュガーボイス。ただし、はるかに深みが加わっているのはいうまでもない。果てしなく優しい“癒し系”作品である「ティアラ」だが、すごみすら感じる瞬間もある。優しくあるための強さがほとばしっている、とでもいおうか。

「100歳になってもきれいなおばあさんでいたいから、これからは1日1日を大切にしていきたい。若い人から養分をたっぷりと吸い取って。一幕では飲んだくれていた時期もあったけど、これからは健康にも気をつけないと。きっと私が何歳になろうと歌は待っていてくれるはず。歌っていない歌のほうが多いし、共演したことのない演奏家、訪れたことのない街のほうが圧倒的に多いんですから、第二幕もお楽しみはまだまだあるぞ!」

text & photo by Takeshi Ishii/石井健


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PROFILE
阿川泰子(あがわ・やすこ)
神奈川県鎌倉市出身。椙山女学園高校を卒業後、文学座演劇研究所にて演劇を学ぶ。
女優として東宝映画「華麗なる一族」「青春の門」などに出演。また、ドラマ「太陽にほえろ」「ウルトラマン・レオ」などにも出演。
女優時代に、ジャズ・クラリネット奏者故鈴木章治氏を紹介され、「鈴木章治とリズム・エース」の専属シンガーとなり、歌手のキャリアをスタート。ソロ歌手として東京・六本木や赤坂のライブスポットなどで活躍。昭和56年のアルバム「サングロウ」が大ヒット。トーク番組「オシャレ30・30」(日本テレビ系)のパーソナリティーとして、より幅広い支持を得る。(公式サイトより)
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