産経新聞ENAK 2月号
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ニコラス・サプトラ インドネシア映画界の薫風
「ビューティフル・デイズ」(ルディ・スジャルウォ監督)は、インドネシアの青春恋愛映画。本国では2002年2月に公開され、250万人もの観客を動員。マレーシアやシンガポールなどの隣国、さらには韓国でも大ヒットした。低迷するインドネシア映画界の起爆剤として期待されるこの作品が、3月の東京を皮切りに日本でも公開される。この映画で主演のひとりとして俳優デビューし、瞬く間にインドネシア芸能界でアイドル的存在になったニコラス・サプトラ(20)が映画の宣伝のために来日した。ENAKはさっそく話を聞きにでかけた。

ニコラス・サプトラ 名門大で建築学ぶ
ニコラスはヒロインのチンタ(ディアン・サストロワルドヨ)が密かに想いを寄せる、制服に身を包んだ繊細で寡黙な高校生ランガを演じている。撮影から時間がたち取材場所に現れたニコラスの雰囲気は、すっかり大人びていた。実際、名門インドネシア大学で建築を学ぶ大学生なのだ。ボーダーの半そでポロシャツに少しすその広がったデザインデニムという出で立ちは、おしゃれに気を配る日本の若者と変わらない。

「演じているランガと僕自身はまったく性格が違います。映画で描かれる高校生活には、僕の経験と重なる部分もありますけど」

ランガは「Aku(おれ)」という本を肌身離さず持ち歩く。インドネシアの映画監督が、詩人ハイリル・アンワル(1922-49)の生涯について書いたシナリオだ。結局映画にはなっていないが書籍として広く読まれているのだという。インドネシア現代詩の創始者で国民的詩人であるアンワルには「おれは群から見捨てられた野獣だ」という内容の「おれ(闘魂)」という詩がある。この詩は映画でランガの思春期を象徴するように使われている。

「『Aku』の思想に興味を持つ高校生なんて実際には少なかったんですが、映画の影響で本が売れて、向こうじゃ社会現象にもなったんですよ」

責任と感謝
そんな孤高のランガに恋心を抱くヒロインのチンタは新聞部に所属し、4人の親友に囲まれて高校生活を送る活発な女の子。ランガと2人の時間を優先すれば友情にひびが入る。誰にでも経験があるときめきと不安を好演する。

ニコラス・サプトラ この映画には首都ジャカルタの高校生たちの日常を知る楽しみもある。ショッピングモールやライブハウスが生活空間として登場する。地下鉄がないジャカルタではバスやタクシーが主な交通手段だが、時には高校生たちが1台の自家用車に乗り合わせて通学する姿にも出合う。そうした姿に照らし合わせると、チンタたちはちょっと豊かな家庭の子供たちのように見えるが…。

「そのへんは強調しすぎないようにしたつもりです。少なくとも、そこに意味をもたせたつもりはありません」と、ニコラスはテキパキと答え、違和感ない日常を描写するよう心がけたと強調する。作品に関して責任ある発言をするよう心得ているようだ。

さらに周囲への気配り、感謝の気持ちも忘れない。

「初めての映画なので大変だったけど、周囲が支えてくれたおかげで演技を楽しめました」

映画はすでにこの作品を含めて4作撮影した。俳優のほか若者向けラジオ番組のDJもこなす。ただ、学業が最優先。映画のランガは米国留学を果たすが、ニコラスの羅針盤は違う方向を指す。

「建築の勉強をしているので、街並みが美しい欧州に興味があります。ロンドンに行ったことはありますが、再訪したいですね。旅行でならリオデジャネイロ(ブラジル)、南アフリカ、チベット…」と、指折り数えるしぐさは無邪気だが、建築の仕事をすると決めたわけではない。

「将来どうするかを、まだ決めたくないんです。俳優を続けるのか、あるいは建築関係の仕事に進むのかもまだ分かりません」

ニコラス・サプトラ インドネシア映画界の薫風
インドネシアは1990年代後半から政治、経済ともに苦難の時代を迎える。97年にタイを発端にした通貨危機により翌98年、インドネシア経済も大打撃を被った。同年5月には32年間続いたスハルト大統領政権が崩壊した。

「政権の崩壊当時、僕は中学生だったから何が起きたのか分からなかったけど、その後、教科書などで歴史を学び、プロパガンダの影響力を感じました。政権崩壊は、若い人間に新しい考え方を芽生えさせたと思うんです。(インドネシアで)6月に公開予定の映画『ギー』では実在する60年代の華人学生活動家を演じていますが、この作品など(華人の文化活動を一切禁じた)スハルト時代には作り得なかったでしょう」

もうすぐ21歳の誕生日を迎えるニコラスは、しっかりした考え方と真っ白な未来を胸に抱く。伝統的な作風が目立つインドネシア映画界にさわやかな新風を吹き込むひとりなのだ。


text by Ryoko Kubo/久保亮子


編集部からのお知らせ
ビューティフル・デイズ
ビューティフル・デイズ
3月5日から
東京・恵比寿ガーデンシネマで
公開予定

http://www.beautifuldays.jp/

概要
ルディ・スジャルウォ監督の青春恋愛映画。インドネシアでは2002年2月に公開され、250万人もの観客を動員。原題は「Anda Apa Dengan Cinta?(チンタに何が起こったか?)」。軽快な音楽にのせて恋か、友情かに揺れる多感な女子高校生、チンタ(ディアン・サストロワルドヨ)が銀幕の中を駆け抜ける。その勢いは、マレーシアやシンガポールなどの隣国へも飛び火。韓国にまで上陸した。低迷を続けるインドネシア映画界の起爆剤としても注目の作品だ。
PROFILE
ニコラス・サプトラ(NICHOLAS SAPUTRA)
NICHOLAS SAPUTRA1984年2月24日、インドネシア・ジャカルタ生まれ。
ドイツ人の父とジャワ人の母を持つ。雑誌のモデルを経て、02年本作で映画デビュー。
03年、「ビオラ・タッ・トゥルダワイ(弦のないヴァイオリン)」で若きビオラ奏者を演じ、国内外で評価を高める。
本国で4月に公開される「ジャンジ・ジョニー」ではコメディ役に挑戦。
好物はナシゴレン(焼き飯)。好きな映画は「ライフ・イズ・ビューティフル」(伊)。ニックネームはニコ。身長179cm。

ニコからインド洋大津波について
「今回の災害にはとてもショックを受けました。私たちは災害から多くを学ぶことができると思います。災害によって、世界の人々がインドネシアに目を向けることになりました。私は、人はいつでも簡単に死を迎えてしまうことを思い知りました。命はそれだけ尊いものだということです。人類は生きていくための知恵を身につけたように思えますが、それを上回る力にはかないません。
災害の後、1週間は悲しみに暮れていました。被災者に義援金や衣料の寄付をしました。友人たちと義援金を募るイベントもしました。いろいろな支援の方法があるので、できる限りのことをしたいと思います。
また、日本の皆さんや政府が積極的に救援活動や募金活動を行ってくださって、心から感謝をしています。」
編集部から
2月号に寄せて
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