ENAK編集部のインタビュー記事です
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ツレちゃん、じゅりぴょん対談 インタビュー
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「マック・ザ・ナイフ」や「スピーク・ロウ」など数々の歌を残した作曲家、クルト・ワイルの生涯を、その作品で歌いつづる舞台「ベルリン・トゥ・ブロードウェイ〜with Kurt Weill〜」が24日から東京・ル・テアトル銀座で上演される。舞台を進行させるガイド役に日本のミュージカル界を代表する鳳蘭。次々とワイル作品を歌う4人に土居裕子、植本潤、藤本隆宏、樹里咲穂。樹里は宝塚歌劇団をことし9月に退団したばかりで、これが退団後の出演1作目になる。今回はその樹里と宝塚の大先輩でもある鳳との対談で、「ベルリン・トゥ・ブロードウェイ」の魅力を語ってもらった。太陽のような鳳とヒマワリのような樹里。ふたりの明るさに押されっぱなしだったENAK編集長。“大脱線”の部分もそのままにお届けする。
text & photo by ENAK編集長


「ベルリン・トゥ・ブロードウェイ」は、作曲家、クルト・ワイルの作品を歌いつづりながら彼の生涯を描くオフ・ブロードウェイ作品。
ワイルは1900年にドイツに生まれた。ベルリンで活動し、劇作家、ベルトルト・ブレヒトと組んだ「三文オペラ」を成功させるが、ユダヤ系のワイルはナチスが台頭するドイツから33年、パリに亡命。さらに35年、米国に渡り50年に没するまでブロードウェイミュージカルの作曲家として活躍。
クラシックからジャズからあらゆるものを飲み込み、陰と陽とがない交ぜになった独特の様式美に貫かれるワイルの音楽は、ザ・ドアーズ、デビッド・ボウイら先鋭的なロックアーティストまでがカバー。その多様さの源流は、ベルリンからブロードウェイまでの彼の人生の足跡にあるのかもしれない。
鳳の進行役のもと、船旅をする4人の男女がワイルの人生を物語るこの舞台は、有名なのに難解ともされるワイルという作曲家の本質に、楽しみながら迫ることができるというわけだ。


引き受けてからが大変

──えーと、では、リラックスして始めましょう
鳳 蘭 はいはい、あなたがね。私は最初からリラックスしているから。

樹里咲穂 あははは、ツレさん、おもしろい!

−−…では、ここからはツレちゃん、じゅりぴょんと呼ばせていただきます。まずツレちゃん、今回の出演の経緯は?

  マネジャーから「とてもいい(作品だ)と思うからやってください」と言われたんです。クルト・ワイルという作曲家についての作品でとてもいいから、と。脚本を読まずに引き受けて、受けてから「これは大変だな」と思っています。そもそもワイルの曲自体が個性的。今では、ちょっと考えられない構成の曲を作る人です。ふつうならこういくはずが、こっちにいったり…とか。かなり勉強しました。

−−いつも出演作を決めるときはそんなふうに?
つれちゃん
鳳蘭(おおとり・らん) 元宝塚歌劇団星組トップスター。トップ在任10年は空前絶後。伝説の男役というにふさわしい。昭和54年退団後はミュージカルを中心に幅広く活躍。57年に菊田一夫演劇賞。平成4年に文化庁芸術選奨文部大臣賞、10年に菊田一夫演劇大賞
  私はマネジャーに任せているから。(私とマネジャーは)もう25年。宝塚を辞めたときからですから。こんど樹里さんもそう(退団)なんでしょ?

樹里 そうです。25年がんばんなきゃ! 見習って。私のほうは退団発表をするかしないかぐらいのときに、お話(出演打診)をいただいて。内容は、よく分からなかったんですけど、舞台で使う曲を全部聴いて、おもしろそうだなと思った。変わった曲が多いけれど、もうちょっと歌の勉強をやりたいと考えていた時期だったので、これに出たらいいステップアップになるかなあとも考えて、お受けしたんです。はい。

−−出演依頼は退団発表前に?
樹里 そうですね。

 最近はそういう例が多いですね。退団発表前にもう次の仕事が決まっている。私たちのころは、最後まで内緒にしていた。だからファンの人たちはこれで本当に見納めだ、と(退団公演の)客席でワーッと泣く。それなのに退団後も仕事をして「裏切り者! また出てきたな」って感じに。ところで、今の人って退団のときにそんなに泣かないんじゃない?

樹里 泣く人もいますけどね。私自身はもう、大笑いしてました。「さよなら〜」みたいな。すごく楽しかったからねえ。

 ファンの人もきっと、次にまだ舞台は観られるのだと思うと−−まあ、男役姿はもう見られないと思うかもしれないけど…。時代がね、違いますね。

鳳蘭 目の前で号泣

−−ツレちゃんは今回、ガイド役ということですが、これは?
 私は言葉や歌の意味がお客さまに伝わらないと、お客様は寝ちゃうと思っています。だから、お客様に意味を理解してもらえるようなガイド役を務めます。まさにガイド役なんですよ。ところで、パール・ハーバー(真珠湾攻撃)って何年だったか知っている?

樹里咲穂
樹里咲穂(じゅり・さきほ) 元宝塚歌劇団男役。今年9月の東京・日生劇場公演「アーネスト・イン・ラブ」主演を最後に退団。これが退団後1作目になる。今後はおおみそかにジルヴェスター・ガラ・コンサート(兵庫県立芸術文化センター 大ホール)、エリザベート10周年 ガラコンサート(東京芸術劇場、大阪・梅田芸術劇場)に出演予定
−−えーと、せんきゅうひゃくよんじゅう…
 やっぱり、かしこい! 41年。今回の舞台のためにかしこくなりましたよ、私は。大学院にでも行っている気分です。

−−つまり、クルト・ワイルが生きた時代背景まで勉強されたと?
 そうです。そのあたりは全部入りましたね。事前にいただいた資料を全部読みまみした。クルト・ワイルが亡くなるところまで舞台はいきます。1950年4月3日。ガイド役として亡くなったと伝える場面があるのですが、いえないの。涙が出てきて。つまって。どうしようかと思って。泣くの。

樹里 ツレさん、せりふ覚えてはるとき、パッと横見たらウルウルしているから。ツレさん、ツレさ〜ん、みたいな。

 もう、感情移入過多でね。どうしたら泣かないで言えるかな。何度も何度もやらないと言えない。初日はなんとか泣かないで言わないと。お客さんに泣いていただかないと。自分が泣いてどうすんのって。

−−へぇぇぇ、そんなもんですかねえ。なぜ、泣いてしまうのですか?
 ナチスの迫害から逃れて、パリにいって、最後米国に行って、やっとブロードウェイですばらしい曲をたくさん作ったのに、たった50年の人生で、この人は死んだんだって思うと…グスン…グスン

樹里 ほら〜! ほんとうに泣いている!

ツレちゃんのいきなりの号泣に、周囲はあぜん、ぼうぜん


樹里 ハートが温かいんですよ。やっぱり女優さんなんですよ。

 いや、女優は泣いちゃいけないのよ。お客さまを泣かさなくちゃいけない。

樹里 でも、それだけ感受性が強いということです。すごく大事なことかなと思います。

 アハハハハハハ。横でクールやね。

コワイもの見たさ? 女優・樹里咲穂

−−話を戻しますが、事前勉強、じゅりぴょんは?
樹里 資料をいただいて読んで、とりあえず私は曲と照らし合わせて、もともとの作品がどういう作品だっのかを理解しようと。もともとのミュージカルで、どういう場面で歌われたのかを調べて、ああ、ここは6人の売春婦がいて、こういう場面で歌って…とか。じゃあ、自分はこういうキャラクターでいこうかなとか。今回は女優ですよ。だけど、だけど、女のかっこうしていますけど、なんだかね…っていうような。危ない、危ない…っていう感じ。

−−スカートをはくんですか?
樹里 そうですよ。ちゃんと髪の毛長かったりとか、かつらで。女のじゅりぴょんで。今回はつまり、(鳳演じる)ガイドの方がいらっしゃって、それからソプラノ、メゾ、テノール、バリトンっていう(歌の)パートごとの4人の男女がいる。歌の場面によってさまざまな役を演じるんです。私はメゾのパートで、女声の低いほうを担当。女なんだけど、じゅりぴょんのような、そうでないような…。なんか、こう、いろんなところが見えたらいいな、ということになっています。

ツレちゃんとじゅりぴょん。

−−退団直後ですから、“女優”としてのじゅりぴょんも見たい、というのは、当然あります
樹里 怖いもの見たさでね。ははははは。ちょっと怖いものを見に来てください! すごいことになっていますから!

−−メゾってご自分に合った音域ですか?
樹里 うーん。男役のときよりは高いですね。でも、そのへんの音域を使って訓練したいとも考えていますから。

 男役をやっていた人の声ってハスキーなんだけど、(樹里は)澄んでるのね、声が。びっくりしゃっちた。ほんとうに男役やっていたのかと。

樹里 男役の中でも高かったです。もうちょっと音域を広げたいですね。しかし、今回ご一緒の土居裕子さん。うまいです。

 すごいわよね。うまいです。

土居裕子 東京芸大声楽科卒。昭和61年、「ファンタスティックス」で舞台デビュー。63年から平成10年まで音楽座主演女優。歌手としてもコンサート、CD発売と活躍。2年、文化庁芸術選奨文部大臣新人賞、5,7、8年に読売演劇大賞優秀女優賞。


樹里 ねー。そう、きれいな声で。

 そうよ。知ってる? 土居裕子さん。すばらしい。

樹里 すごいですよ。だから、そういった面でも勉強になっていますね。

 芸達者だし。

−−じゅりぴょんは宝塚在団中も外部出演されました(「SHOCK」「シンデレラ」など)が、そのときと退団後にやるのとは違うもの?
樹里 うん。在団中はやはり背中に宝塚の看板をしょっているし、周囲の方もそういうふうにごらんになる。今回は樹里咲穂という人をそのまんま出せるので、今のほうがラク。ラクに楽しめるというか。私が過去(宝塚で)何をしていたかもあんまりご存じないから、人間対人間で接してくれて。

 (今回のスタッフで)あなたの男役姿って見たことない方、多いでしょ? 実は私もない。あ、「シンデレラ」は別として。宝塚時代(の樹里)を知らない。

樹里 だからかえって楽しいです。固定観念をもっていない人たちの中にいるから。

−−それだけ実力が試される
樹里 もう、そんなんいわんといてくださいよぉ。ぜんぜんたいしたことないんですから。でも、がんばっていますから!

男役は財産 捨ててはダメ

−−そうそう、「シンデレラ」といえば…あ、話が脱線しまくりですね…
 ははははは。大好きよ、そういうの。

−−「シンデレラ」拝見したときは、鳳さんはすごいな。いまだに男役を続けてらっしゃる、と感じましたよ
 あ、そうですか。ただ年取っているだけ。…「シンデレラ」で男役だった? 魔法使いだったけど。

ツレちゃんとじゅりぴょん −−いえ、最後に短いショーがついていたでしょ?
樹里 あー、ついてた、ついてた。フィナーレナンバー! かっこよかったですよ。

 あたしね、今でも男役のほうがやりやすい。女優という言葉には抵抗があるんです。俳優と呼ばれたい。宝塚を辞めた直後は女らしい女優になりたいわあ、と考えました。女優としてのあこがれは太地喜和子さん。着物の襟元からブワーッと色気が出てくるような女優にあこがれていたけど、10年ぐらい前かな、いいや、私には無理。スポーティーな女優になろうって決めました! そしたらすごく楽になった、自分が。こだわらない。

−−スポーティーな女優!
樹里 確かにスポーティーですねえ。今回、すごくかっこいいですよ。

 なにいってんの、女優よ、あたし!

樹里 ふふふ。あのね、ガイド役をしてらっしゃるんですけど、ところどころガイドした後、芝居をなさるところがありますよね。見たら、へー! かっこいい! 男役になったり、ガイドになったり、酒場の主人になったり。

 もう、男役。このガイドという役は、そもそもオフ・ブロードウェイでは男の人がやってた。だから私は性別問わないでやっている。

樹里 すごくかっこいい。そこ見どころ。見どころ。

−−さすが110度CSの宝塚専門チャンネルの番組で司会をやってらっしゃっただけあって、合いの手がじょうずですね。
 うまい、うまい。樹里さんの歌こそ見どころ。ときどき男役入って。それがかっこいい。スポーティーな女優で。

樹里 私もツレさん目指します。

 それでいい。スポーティーな女優で。

−−じゅりぴょん、具体的にはどういう方向を目指すのですか?
樹里 (宝塚を辞めて)女優になるぞーってあたりですか? 無理なような気がしてきて。宝塚にいたときもちょっと個性派だったし、そういう方向でいこうか、と考えたりはしているんですけど。自分にどこまで可能性があるのか。これまで女性の部分はあまり使ってこなかったので、掘り下げるとどうなるのかという興味はありますけど、いろんな役に出合っていくと自分にこんな面があったかと発見して、ときどきによって変われたらいいな、というところでしょうか。

 まだ決めちゃあだめよね。これからいろんなところが出てくるから、まだ、それでいいの。決めなくていいの。私、思うんですけど、「狸御殿」って舞台をやっているでしょ? あれを始めたら宝塚時代のファンの人が大勢戻ってきてくれた。だから、宝塚の、男役のファンなわけ、ファンは。だから女優をやりながら男役もやったらいい、と思いますよ。もちろん、女だけをやりますという人は、どうぞ、そのまま。でも、たぶん、厳しい。ファンは男役のファンなわけ。

樹里 それはすごくよく分かる。男役は、十何年間かで培ってきた、ひとつの芸ですよね。女性でもあるけど、男役という部分も極めていたというところを使ってもいいんじゃないかな。

 そう、そう、そう、そう! 使ってもいいの。捨てようとする人いっぱいいるの。でも、絶対に気づく。いつかは。いつか気づくの。あ、間違っていたって。髪を伸ばしてキャーッってやるのもいいけど、いつか気づく。そうじゃないって。この考え方のほうが正解なの。財産なの、それは。素敵な財産よ。ふつうの女優さん、男役はできないんだから。すごい財産よ。

樹里 そうですねえ。それが私の幅。今、けっこうなんでもありっていうか、幅広くなっている時代なので、そういう部分も使っていいのかなと思っているんですよね。

土居と樹里 個性の違いがおもしろい

−−話を「ベルリン・トゥ・ブロードウェイ」に戻しましょう
樹里 この作品はすごく個性的ですよね。ちょっと変わっていますよね。

 もう曲自体が変わっているからね。むちゃくちゃ個性的だから。

樹里 ごらんになるかたも、「こういうもんがあったのか」って異色な感じで、おもしろいんじゃないかと思うんです。

 受け入れていただければすごく受け入れていただけるけど、そうじゃなかったらちょっと難しいかなと思ったりもするけど。だからこそ、受け入れていただけるように丁寧に、必死にやるの、ガイド役を。

樹里 でもね、ツレさんが情景描写をされると、ほんとうのにその光景が見えちゃうんですよ。「マンハッタンのスカイラインが…」といえば、その光景が。どうやったら、あんなしゃべり方ができるんやろうって、ほかの人たちとも話していた。

この写真を撮るため、パイプいすを脚立代わりに使ったENAK編集長。「ああ、あぶない。あなた運動神経なさそうだから、そっちの楽器を入れる箱のほうに立ちなさい」とツレちゃん。箱にのろとうするENAK編集長に手を差し出した。おお、まさに男役の所作。娘役気分のENAK編集長にツレちゃんさらにひとこと。「脚、短いなあ。下から見上げて、この長さや!」。ともかく周囲に笑顔を、というエンタテイナーぶりに、やられっぱなしでした
この写真を撮るため、パイプいすを脚立代わりに使ったENAK編集長。「ああ、あぶない。あなた運動神経なさそうだから、そっちの楽器を入れる箱のほうに立ちなさい」とツレちゃん。箱にのろとうするENAK編集長に手を差し出した。おお、まさに男役の所作。娘役気分のENAK編集長にツレちゃんさらにひとこと。「脚、短いなあ。下から見上げて、この長さや!」。ともかく周囲に笑顔を、というエンタテイナーぶりに、やられっぱなしでした


−−どうやったらできるんですか?
 いや、もう、それは全部頭の中にイメージを思い浮かべて言うの。えーと…超高層ビルの22階、部屋は2224号室。窓からは、あのすばらしいマンハッタンのスカイライン…。全部、私の頭の中に出てくる。

樹里 はあぁ、ツレさんがまず頭の中でイメージして、それを言っている。だからか。

 イメージがないと言えないの、せりふ。だから、訳詞なんかでイメージがわかないものだと覚えられない。空が青いっていったらすぐに覚えられる。だけど、空がピンクだっていわれると…。ピンクの空は思い浮かべられないから歌詞も覚えられない。訳詞によっては覚えにくいときもある。イメージがわかないとだめ。

樹里 ああ、そういうことやったんや。勉強になりました。すごい。

 でも、あなたうらやましい。私なんかもう、育っちきっちゃったけど、あなたはこれから。うらやましい。どっちへいくのか。

元タカラジェンヌとしての苦労

樹里 はははは。やばい、やばい、やばい! いったいどうなるのか自分でもよく分からないし。いったいどうなるんでしょうね?

 土居さんとこの人と、ぜんぜんキャラクターが違うのがまたおもしろい。ふたりとも土居裕子になっちゃったらいけないと思うし、樹里になってもいけない。やっぱり、どっかで二枚目、この人は。

樹里 え? そうですか?

ツレちゃんとじゅりぴょん


 うん。土居さんは“超三枚目”にパッと切り替われるから、そのへんの対比がおもしろい。あんまりこの人を芸達者にしちゃうと混ざっちゃってだめかな。かわいい(タカラジェンヌの)下級生だから、いろいろ(助言しようかと)思うんだけど、あんまり言ってもいけないし。この二枚目さをまだ大事にしないといけない。今、へんに形にしようとして伸びなかったら困る。私も悩んでいるの。

樹里 ありがとうございます。

 宝塚出身者は、やっぱりかわいい。ミュージカルの舞台に長いこと出ているとだれかいるんですよ、下級生(退団したタカラジェンヌ)が。かわいい。気になるの。タカラジェンヌじゃない子がうまくやっちゃうと、えらいこっちゃ、くわれたらどうしようって、自分の分身のように思っちゃうんですよ! でも難しい。自分はこう思うけど、伸び盛りにふたをするようなことになったらいけない。難しいねえ。

樹里 いや、でも、いつも見ていてくださって、適切なアドバイスをいただいて。いわれたら、あ、そうやわ、みたいな。

 宝塚の人は悪いくせがあるから、それだけはとりたい。

−−たとえば?
樹里 せりふの言い回しとか…

 せりふの言い回しかなあ。男役やっていたから、せりふを変なところで粒立てちゃうんですよ。そこはさりげなく、“しまわないと”いけないところでも。

樹里 そう、さりげなくっていうのが難しいんですよ。ちょっと抜くところとかがね。

 ノーマルにするのが難しい。宝塚はアブノーマルだから。女性が男性を演じていることからして、違うでしょ。あんだけの衣装、あんだけのメークに負けないお芝居。宝塚では、リアリティーのあるお芝居だと、そういうものに負けちゃうの。あの照明に3000人のお客様。それに対抗する芝居をしなくちゃいけない。その結果、外に出ちゃうと変なところで粒立ててしまうのよね。リアルにやらないといけないことがタカラジェンヌにとっていちばん難しいところ。そのへんは、(卒業生の中では娘役として活躍し、現在女優の)黒木瞳さんとかは、うまいことパーッと変えたなと思う。すごくうまい。テレビ見ていると、この人頭いいなと思う。

樹里 卒業してからの、苦労みたいなものもご存じなので、適切に言っていただけます。今回が退団後初めての仕事、女優デビューなので、そういうときに先輩がいらっしゃるのはラッキーだった。私はけっこう、いろいろと言ってもらいたいほうなので。今回はラッキーだな、じゅりぴょん、みたいな。じゅりぴょん、ラッキーだよって自分で言っています。ふふふ。

ワイルの歌いがい

−−これまでクルト・ワイルの曲を歌ったことは?
樹里 宝塚時代は「マック・ザ・ナイフ」ぐらいですね。それも歌ってなくて、横で踊っていました。ほかの曲も、こんなにおもしろいんだってことは知りませんでした。海外では大変尊敬されている作曲家。そういうことを日本の人に知っていただきたい。こういうすばらしい人なんだよと。

−−クルト・ワイルは難しいといわれることが少なくありませんが
樹里 まず音をとるのが難しい。ふつうソロのパートだったら自分の好きなように歌えるはずなんですが、バンドと合わせてけいこをしてみたら、まったく予想外の音が鳴っていたりする。なぜ、ここでこの音が? みたいな。クルト・ワイルさんってあまのじゃくやったんと思う。

ツレちゃんとじゅりぴょん  動脈瘤(りゅう)がたくさんあるの。ふつうならここで終わるというところで、1回、こっちへいって、また戻ってくる。

樹里 そう。そんな感じなんですよ。だから、聴いている方はそこがおもしろいかもしれない。でも、はまったらはまりますよ、これ。

 アブノーマルやね。そして、あの〜、ドラマチック、ですよね。すごく。湖のように澄んでは、いない。ドロドロドロドロッとしている。だから、覚えたらなかなか忘れないだろうなっていう感じ。これまで歌っていちばん難しかったのはスティーブン・ソンドハイム(「太平洋序曲」などの作曲家)の作品ですが、その次ぐらいかな。クルト・ワイルは。

−−その分やりがいがある?
 やりがいがあって楽しい。おけいこしているときが大好きなの。できあがっていくのが快感なんですよ。やっとお前をつかんだぞ、みたいな。歌とけんかしている。とにかく、おけいこ段階が好きなの。楽団との合わせけいこがいちばん好き。

樹里 あ、私も好き。本番よりおけいこのほうが好きかも。本番になったらねえ、条件がいろいろだから。

−−じゅりぴょんはカルテットで歌うということは完全にハモリのパート?
樹里 短いソロとかは何曲かありますよ。

 おもしろい歌あんのよ。新聞を読みながら歌うの。

樹里 土居さんとふたりで歌うんですけど、乳母車を押した主婦で、殺人事件の現場を見に来たっていう場面。あれはやればやるほどおもしろいな。あと、3人でうたうところもあるし。

−−コーラスのパートを担当するのは宝塚時代からやっているから難しくはない?
樹里 いや、いや、いや、いや、それがですね、下級生のときはともかく、上級生になったら、だんだんソロパートをいただくじゃないですか。それでコーラスをしなくなったり、上級生の権限をいかして「私、主旋律〜」みたいになっちゃって。そのつけが回ってきたな。

 ガイド役もときどきコーラスに参加するけど、私は、全部主旋律!

樹里 クルト・ワイルは特に難しいですよね。ハモってても合っているのか間違っているのか分からないんですよ。でも聴いている方はそれがおもしろい。本当にはずしちゃったらだめだから、楽譜に書かれた音で歌わないとおもしろみもない。

−−宝塚でもジャズナンバーをよく取り上げます。ジャズはごく日常的に不協和音を使いますが…
樹里 宝塚の場合、ふつうの和音構成で歌う場合が多い。ところで、おもしろいのは1幕の舞台がドイツで2幕がブロードウェイなんですが、ぜんぜん違うんですよ、1幕と2幕の曲想がね。1幕はドロドロしています。リズムも兵隊が歩いているような。

 いちばん最初に出てくるのが「三文オペラ」のナンバー。

樹里 2幕はすごく楽しいですね。ブロードウェイならではの明るさがあって、リズムもだんだん、おなじみのものになってくる。だから1幕でちょっとどうなるんやろうと思っても2幕で、わあーみたいな感じですね。

私以外がほめられるように

−−演出は宝塚歌劇団の三木章雄。
 ええ、三木先生です。

−−じゅりぴょんは在団中に三木作品に出ていると思いますが、ツレちゃんは?
 私がいたころ、彼はまだ演出助手でした。私、在団中に1回リサイタルをしているんですけど、そんときにも彼が助手でついていて、酔っぱらって帰る車の中で「三木ちゃん、結婚して〜」っていったら「酔っていないときに言ってください」といわれたぐらい、親しい間柄です。

ツレちゃんとじゅりぴょん 樹里 あははははは。そういう面で?

−−…それ…実話ですか?
 実話です。先生、覚えているって。25年前なのに。

樹里 だって、鳳蘭さんにプロポーズされたんですよ。それ忘れたらあかんでしょう。

 でも、あたしね、ベロンベロンに酔っていたのに「酔っていないときにいってください」って言われたのだけは、いまだに覚えている。あーあ。あはははは。だから、うれしいですよ、今回。なんとか彼が評価されるようにこっちもがんばりたいなあと思う。演出がすばらしいっていわれたいと思う。どの作品もそうなんですが、自分がほめられるより、作品とか演出家、出演者がほめられたほうがうれしいの。

−−へえぇぇ、若いころはいかがでした? 若いころは自分がほめられたかったでしょ?
 ああ、若いころはずっとほめられ続けていたから。ほめられることにはあきていた。

樹里 か…かっこいい〜! やっぱスターだな。かっこいいなあ〜!

−−いや、これは、失礼しました。
 アハハハハハハハハハハ!

樹里 そういう部分が、大きさとなって舞台に現れているんですよ。そこが素敵なんです。私はそういう大きなものに包まれながら、今やっているわけです!

この後、頼りないENAK編集長にかわって、じゅりぴょんが司会役に。さすが、CS番組で名司会者ぶりを証明ずみのじゅりぴょん。巧みなリードで、ツレちゃんの読書好きぶり(「私ね、1日1冊読むぐらい好き」)、さらには歌劇団入りのきっかけ(「学校で級友が受験するというので、私もいっしょに…。それまで宝塚は知らなかった」)から「ベルサイユのばら」秘話(「パリ公演から帰国したら“ベルばら”ブーム。完全に乗り遅れちゃって…」)まで、さまざまな話を引き出してくれましたが、この話はいずれまたの機会に…。ともかく今回は「ベルリン・トゥ・ブロードウェイ」に注目を!
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information

公演の詳細はこちらでご確認ください
ベルリン・トゥ・ブロードウェイ
東京公演
11月24日(木)〜27日(日)
ル・テアトル銀座(東京・銀座)
TEL 03・3535・5151

24日(木)19:00
25日(金)14:00/19:00
26日(土)14:00/18:30
27日(日)14:00

S席:9000円(全席指定・税込み)
BOX席(2名):20,000円(特典付)


問い合わせ:東京音協 03・3201・8116



大阪公演
12月5日(月)〜6日(火)
シアター・ドラマシティ(梅田芸術劇場)

5日(月)18:30
6日(火)12:00/16:00
¥8,500(全席指定・税込み)


問い合わせ:梅田芸術劇場 06・6377・3888


愛知公演
知立市文化会館 0566・83・8100
12月3日(土) 18:30
¥4,000(全席指定・税込み)
問い合わせ:パティオ池鯉鮒(知立市文化会館) 0566-83-8100

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