産経Webへ戻る
ENAKってどういう意味? | お知らせ | 新聞バックナンバー購入 | 問い合わせ | リンク・著作権 | MOTO | 産経Web
自然界の力で本来の味を
ワインはこれから“ビオディナミ”
  東京朝刊 by 頼永博朗
健康志向の広がりに伴い、自然派ワインが人気だ。中でも、化学合成された農薬や肥料などを使わない有機農法ワインの1つである「ビオディナミワイン」は土壌造りや栽培、醸造に宇宙の力を借りるという神秘的な取り組みから、愛好家以外の関心も高まっている。世界的に評価の高い生産者であるフランスのニコラ・ジョリーさん(61)と、オーストリアのクリスティーネ・サースさんが、このほど来日、その哲学や手法を聞いた。

土地固有の繊細さ
ニコラ・ジョリーさん(フランス)
ジョリーさんはフランス北西部、ロワール地方のサヴニエール地区で白ワインを産する。中でも、7ヘクタールの畑で栽培したシュナンブラン種100%で造る「クレ・ド・セラン」は、フランス5大白ワインに数えられる。農閑期には世界中で農法の啓発活動を行い、「ビオディナミの伝道師」と呼ばれている。

「消費者は画一的な味のワインに飽きてしまい、ビオディナミによる味を求めている」と語るニコラ・ジョリーさん(撮影・瀧誠四郎)

「地球上の生命は重力と浮力という相反する2つの力の影響を受けている。例えば、水星が地球、太陽と一直線上に並んだときに水とかき混ぜた調合剤(特別な手法で作った有機肥料)は効果が大きくなる」。地球の潮力が月との関係にあるように、天体の位置関係も含め、自然本来の力に直接働きかけ、その力を引き出そうとする姿がビオディナミといえる。

米国での銀行家の経歴を持つ。30年前、故郷に戻り、ワイン造りを始めた当初は農薬に頼った。しかし、「虫が寄りつかないほど畑の土壌は死んでしまった」。1984(昭和59)年から全面的に取り組み、近代農法への警鐘を鳴らし続ける。

「人工酵母などを使えば、300種類もの味をワインに人為的に付けることはできる。だが、それは本物ではない」。根底には、「ワインはおいしくある前に、土地固有の繊細さを表現したものでなければならない」という自国ワインの原点への回帰心がある。

「ビオディナミへの転換は世界的な潮流。将来は、教育や医学にも用いられるでしょう。それは、人がテクノロジーに頼りすぎた結果として、病んだ地球に気付き始めた揺り戻しなのです」

雌牛の角使った有機肥料
クリスティーネ・サースさん(オーストリア)
サースさんの「ニコライホーフ」はオーストリア最古のワイナリーで、ドナウ河流域の国内屈指の産地、ヴァッハウ地区にある。ビオディナミの先駆けとして知られ、家族で実践している。4年前には、その抗酸化機能で、ドイツの科学機関から「世界一健康に良い白ワイン」と認定された。

雌牛の角を手に、「ビオディナミは人間と植物、動物、天空のハーモニーを取り戻す取り組み」と語るクリスティーネ・サースさん(撮影・小松洋)

「この農法を始めたのは1971(昭和46)年。当時は『頭がおかしい』と嘲笑(ちょうしょう)されましたが、今では多くの人が認めてくれるようになりました」

ビオディナミは、時に「占星術のよう」「カルト的」といわれる。その風変わりさを象徴する道具の一つが、雌牛の角。「雌牛の角は“宇宙からのエネルギー”を受けている」という独自の考え方に基づき、角の中に牛糞(ふん)や水晶粉を詰めて土中に埋め、有機肥料を作る。

「肥料作りには薬草も使います。こうした肥料は、多くの生物が活発に活動する健康な土壌を作ります。この土こそ、ブドウが自らバランスを保つ力を身につけるのに、必要なのです。実際に4年前の多雨、3年前の酷暑にも、私たちのブドウは上出来でした」

ビオディナミは生活の一部でもある。「私たち家族は、つめや髪を切る日も、月の暦に合わせています。そうすることで健康を保てるのです」

造り出すワインの特徴を、「(世界で流行している)樽香の強さに慣れた人には、なじめないかもしれない繊細さと複雑性」と表現する。「繊細な食文化を持つ日本人には、ビオディナミの味わいを深く理解してもらえるはずです」





産経Webは、産経新聞社から記事などのコンテンツ使用許諾を受けた(株)産経デジタルが運営しています。
すべての著作権は、産経新聞社に帰属します。(産業経済新聞社・産経・サンケイ)
(C)2006.The Sankei Shimbun All rights reserved.

ここは記事のページです

記事関連情報
【用語解説】ビオディナミ
バイオダイナミックス(生命エネルギー)のフランス語。オーストリア出身の人智学者、ルドルフ・シュタイナー(1861〜1925)が提唱した生力学農法に基づく。「ビオ」とも呼ばれるが、天体の運行が自然界に与える作用を考慮する点で、単なる有機農法の「ビオロジー」と区別される。地味(ちみ)に恵まれたワインに仕上がるとされるが、ブームに便乗した生産者の排除が課題。多くの農産物に使われ、国際団体「デメテール」などの認証機関がある。挑戦している日本の生産者も。