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ストレス社会を再考
フロイト再び 生誕150年 岩波書店、全集刊行
  東京朝刊
「無意識」の存在を発見し、心理学の分野で「トラウマ」(心的外傷)や「ナルシシズム」などの言葉を使い始めた精神分析の創始者でオーストリアの精神科医、フロイト(1856〜1939)。生誕150年にあたる今年、「フロイト全集」(岩波書店)の刊行が始まった。ストレスによる自殺など、心をめぐる問題が焦点となっているいま、フロイトの思想に再び注目が集まっている。

オーストリアの精神科医フロイト(1856〜1939)

フロイトは、夢を分析した「夢判断」などの著書で知られるが、無意識のレベルでの性の欲望を人間の本源的なエネルギーとする説や、エス・自我・超自我の心の三層構造などを唱え、精神医学の分野ばかりでなく、社会科学や文学、芸術にも大きな影響を及ぼした。

全集の編集委員のひとり、新宮一成・京大大学院教授は「フロイトは無意識の中に問題解決の重要なメカニズムがあると考えた。たとえば子供のころの虐待体験は、そのときには受けた傷の大きさや意味がはっきり分からず、成長後に分かることがある。だから心理学では、後から治療をやり直すという考え方が出てきた。フロイトがいなかったら誰も気付かなかった」と話す。

「フロイト全集」は全22巻と別巻で構成。本邦初の翻訳となる初期論文などを加え、フロイトの思想の全容がわかる内容となっている。これまでにも人文書院が1960年代から70年代に出した「フロイト著作集」(全11巻)などがあるが、全著作を網羅したのは今回の全集が初めてという。

全集は約270の著作を年代順に並べており、先月「1919−22年 不気味なもの 快原理の彼岸 集団心理学」(第17巻)が発行された。今後、年6冊のペースで出版し、約4年をかけて完結する。

担当編集者の西澤昭方さんは「書店で癒やしのメッセージを投げかけた本を多く目にするように、今ほど病んだ心に向けられる言葉が求められている時代はない。自殺やいじめが社会問題となっている現在、思想家フロイトの言葉は多くの人に問題解決のヒントを与えてくれると思う」と話している。(堀晃和)

哲学者、鷲田清一・大阪大教授の話「今の時代は、自己責任など自分がどうにかしなければいけないという強迫観念がある。わからないものがあるということに、ものすごく不安になる。だから自己啓発や自分探しに一生懸命になる。フロイトを読むことで、わからないものとつきあう方法を学ぶことができ、われわれを縛りつけているものを緩めることができるのではないでしょうか



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