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麻薬中毒者の幻覚を見事に描写
映画「スキャナー・ダークリー」 実写とアニメで描く狂気
12月8日(金) 東京朝刊 by 岡田敏一
近未来の米ロサンゼルス郊外を舞台に、麻薬摘発のおとり捜査官が自らも麻薬中毒者となり、徐々に人格が破たんしていく様子を、実写とアニメーションを融合させた斬新(ざんしん)な映像で見せるユニークなSF映画「スキャナー・ダークリー」(リチャード・リンクレイター監督)が9日から公開される。有名なSF小説の映画化だが、原作が描く麻薬中毒者特有の幻覚症状や妄想を見事に映像化することに成功している。

実写とアニメーションを融合した斬新な映画「スキャナー・ダークリー」

米カリフォルニア州オレンジ郡保安官事務所の麻薬課捜査官、ボブ(キアヌ・リーブス)は、大流行している新種の麻薬「D」の流通ルートを割り出すため、誇大妄想狂のジム(ロバート・ダウニーJr.)や深刻な幻覚症状に悩むチャールズ(チャールズ・フレック)といった中毒者グループと共同生活を送るが、事務所に入ってきたのは「ドラッグ・ディーラーはボブ」という情報。

訳が分からぬまま自分自身を監視する羽目になるボブ。おとり捜査では、1秒間隔で様々な顔を次々表示する特殊なスーツを着用するため、誰が誰に扮しているかは外部の人間には判別できない。そんな中、ボブの右脳と左脳のバランスが崩壊し始めていることが分かる。その真相を知るのは、「D」の売人でボブの恋人ドナ(ウィノナ・ライダー)らしい…。

SF映画の金字塔「ブレードランナー」(リドリー・スコット監督、1982年)やスティーブン・スピルバーグ監督の傑作「マイノリティ・リポート」(2002年)などの原作で知られる米SF作家フィリップ・K・ディックの人気小説の映画化。しかし、麻薬中毒に長年苦しんだディックの私生活を最も正確に描写しているといわれた作品だけに、映像化は困難とされてきた。

監督は、「スクール・オブ・ロック」(03年)といった娯楽作を手がけたリンクレイター。サンダンス映画祭で絶賛された異色の前衛アニメ「ウェイキング・ライフ」(01年)で使われた、実写の映像にデジタル・ペインティングを施す「ロトスコープ」という特殊技法を活用した。最初に実写版を完成させ、その映像をアニメ化するもので、普通の作業の2〜3倍の手間がかかる。

体中を虫がはいずり回り、退治しようとしても虫がどんどん増えたり、自分が始終誰かに監視されていると感じたり、人間が奇怪な虫に見えたりといった、ヘロインや覚せい剤のような薬物の濫用による中毒症状の映像化が見事。物語の“ブッ飛び”ぶりも特筆に価する。出演者も「観客への問いかけを論理的に構築した作品がSF映画と考えれば、この作品はコンセプトも物語も極めて秀逸だ」(リーブス)、「今まで見たこともないSF映画よ」(ライダー)と絶賛した。

リンクレイターは「ディックは科学技術の進歩の功罪のうち、罪の部分を表現したかったのだと思う。科学技術の進歩が権力による監視や全体主義に利用されるという懸念はジョージ・オーウェルの『1984』以来、絶えることはない」と話した。

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