殺人を犯した受刑者の家族を描いた映画「手紙」が公開約1カ月で興行収入10億円を超えるヒットとなり、話題を呼んでいる。撮影が行われた千葉刑務所では試写会も行われ、受刑者らが涙を流したという。凶悪犯罪が増え、被害者やその家族の人権救済を求める声が高まる中、加害者の家族の人権についても映画は問いかけている。
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映画「手紙」のワンシーン。刑務所の兄(玉山鉄二)にとっては手紙は家族との唯一のきずな、被害者への償いの証しとして描かれる
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「手紙」は作家、東野圭吾さんの小説が原作。両親を亡くし親代わりに弟の面倒をみてきた兄が、弟の大学進学費を得るために強盗殺人を犯し、無期懲役の判決を受ける。弟は進学をあきらめまじめに働くが、「殺人者の家族」というレッテルを張られ、自分だけでなく妻や娘も社会から差別を受ける…。
加害者家族の人権という重厚なテーマながら、この映画は、幅広い層に支持され全国でロングランヒットを記録。配給のギャガ・コミュニケーションズは今年から邦画製作に本格的に乗り出しているが、今年公開した6本中、最もヒットした。
主人公の兄が服役するのが千葉刑務所で、作品のテーマに共鳴した同刑務所が撮影に全面協力、今年春、赤れんがの正門前でロケも行われた。同刑務所で行われた上映会では、初犯の長期刑(懲役8年以上)の受刑者780人が鑑賞した。
「無期懲役で服役の身。『手紙』とは逆の立場で私には兄がいます、兄にも家族があり、どんなに苦労したかを考えさせられました。面会の時に見せた兄の涙を思い、見放さないでいてくれたことに感謝します」
「『血のつながった兄を捨てることはできない』。同じ言葉を母に言われました。刑務所にいる僕より職場での母はつらい状況のはずです。母を二度と裏切りません」
感想文は、犯罪者の家族の人生も大きく狂わせてしまう事実を物語る。
一方、被害者は罪に服する加害者とその家族を許せるものなのだろうか。「被害者感情から言わせてもらえば、加害者の罪は一生許せるものではない」と大阪弁護士会の雪田樹理弁護士は話す。
しかし「加害者の家族の人権も守られるべきだ。これは被害者の人権を守ることにもつながる」とも強調。幼児虐待などの加害者の多くが、かつて本人が被害者だったという例を挙げ、「被害者と加害者は実は表裏一体」と指摘する。
今年5月、監獄法が改正され、受刑者には刑務作業に加え、被害者感情や被害者の視点を理解させるための教育が始まった。千葉刑務所での上映会はこの教育の一環として行われた。「映画を通じ、受刑をめぐる家族の葛藤(かっとう)、被害者感情や更生の現実を知り、犯した罪の重さを受刑者に改めて考えてもらえたのではないか」と同刑務所は話している。