交流深まるきっかけに
映画「バルトの楽園」 戦時下、自由を守り抜いた日独両国民の友情
6月20日(火) 大阪夕刊 by 戸津井康之
映画「バルトの楽園(がくえん)」は、第一次大戦中の徳島県鳴門市の捕虜収容所で、ドイツ人捕虜がベートーベンの第九を合唱した実話が基になっている。出目昌伸監督と収容所長の松江豊寿を演じた松平健は「戦時下、敵対関係を乗り越え勇気を持って自由を守り抜いた両国民の友情は現代人にも通じると信じたい」と声を揃えた。

「ヒーローではなく一人の男として松江所長を見てほしい」と松平健(右)は言い、出目昌伸監督は「今の日本人に彼の生きざまが、どう映るのかを見てみたい」と話した
「ヒーローではなく一人の男として松江所長を見てほしい」と松平健(右)は言い、出目昌伸監督は「今の日本人に彼の生きざまが、どう映るのかを見てみたい」と話した


同収容所で初めて日本で紹介された第九は、90年を経た今、日本の年末の風物詩となるほどに親しまれている。捕虜の人権を守り通した松江の態度や捕虜たちの歌声は、親しんだ地元民の心に深く刻まれた。

《第一次大戦中の1914年、日本は中国・青島の戦場でドイツを破り、捕虜を日本へ送る。捕虜を囚人扱いする収容所が多いなか、鳴門市の板東俘虜収容所の松江所長(松平)は「捕虜は犯罪者ではない」と主張、寛容に受け入れるが…》

「バルトの楽園」のワンシーン。ブルーノ・ガンツ(左)、松平健という2人の名優の“日独競演”は見どころだ
「バルトの楽園」のワンシーン。ブルーノ・ガンツ(左)、松平健という2人の名優の“日独競演”は見どころだ


約3億円をかけて収容所のセットを鳴門市内に再現した。宿泊施設や新聞印刷所、パンやハムの工場もある。当時のドイツの技術の先進性を示し、松江所長の捕虜を受け入れる姿勢も伝える。戦後、日本に残って製パン技術を伝えた元捕虜も描かれる。「詳細には描けなかったが、実は薫製技術や体操の技なども描き込みたかった。もう1本できるぐらい資料はあった」と出目は明かす。

ドイツ軍の指揮官ハインリッヒ役をドイツの名優ブルーノ・ガンツが演じるなど現場は国際色に富んだ。ドイツ語のセリフに初挑戦した松平は「撮影前にカセットテープで勉強したが、いざ現場でドイツ人俳優とセリフ合わせをしてみると発音がまったく違いましてね」と苦笑した。が、「現場でひとり練習していると、ガンツさんがそばに来てセリフを合わせてくれましてね。おかげで生きた会話の発音を覚えることができました」と振り返る。そして「松江やハインリッヒはスーパーヒーローではないが、最後の侍の信念を持った男たちだったのかもしれない」と続けた。

今作のドイツ公開も決定。ドイツでのサッカーW杯には、日本チームも出場している。日独2人の俳優は「“負の戦争から生まれた友情”という数奇な物語ですが、改めて日独交流が深まるきっかけとなればうれしい」と、期待を込めた。


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