■ギリギリセーフの快感
地下鉄のホームへ向かう階段の途中で列車到着を告げるアナウンスが聞こえてきたり、用事を済ませて戻った路上パーキングのメーターが制限時間1分前の表示だったり、はたまた酷使した携帯電話を電池切れ直前に充電器に接続できたり。

そんなとき、思わずガッツポーズをしてしまう。「ギリギリ、セーフ!」
私にとってのささやかな喜びともいうべき“ギリギリセーフの快感”を、とんでもなく大げさに、また痛快に味わうことができるのがこの映画「ミッション・インポッシブル3」だ。
■スタント ほとんどトム自身
シリーズを通しての主役、イーサン・ハント(トム・クルーズ)はアメリカの極秘スパイ組織IMF(Impossible Mission Force)に所属し、作品ごとに新たな“ミッション・インポッシブル(不可能な任務)”に挑む。
上映時間が2時間6分のこの最新作では、「絶対、無理!」と口にしたくなるほどの難題が次々とイーサンを襲う。

見ごたえがあるのは、中国・上海での超高層ビル3棟を利用したアクションシーン。イーサンは標的の隠されたビルへの侵入手段として、隣接したビルの屋上から飛び移ることを選ぶ。
屋上で気持ちを静めるイーサンの足元には上海のまばゆい夜景が広がり、こちらまでゾっとする。「トム・クルーズならできる!」と、劇中人物と俳優とを混乱させながら心の中で祈るほど緊迫する。
意を決し、舞い上がるように飛び上がるイーサンは、すぐに遠心力を生かし振り子のように揺さぶられながら目的のビルに激しく体をぶつけて落下、着地する。
そのまま地上に滑り落ちてしまうシナリオなどあり得ないとさめて考えてみても、この紙一重の成功はやはりたまらない。
イーサンの頭上を全長12メートルものトレーラーが通過する場面も。パラシュートで降下しようとして街灯に引っかかってしまい、路上に寝転ぶように落下。その瞬間、イーサンの目線で映し出されたスクリーンに猛進してくるトレーラー。こちらも反射的に目を閉じてしう。再び目を開ければ、スクリーンではイーサンも目を丸くしながらトレーラーを見送っていた。
スタントは、ほとんどすべてトム本人がこなした。スタント・コーディネーターのヴィック・アームストロングは撮影時の状況をこう語っている。
「トラックのシリンダーが一本でも折れたら、トムはつぶされてしまう危険なものだった。本番では、私は高い位置に設置されたカメラをのぞいていたのですが、トラックがトムに向かって進み、車体が横に傾きながらトムをまたぎ越すまで、ものすごく長い時間がかかったように思いました」
「トムがトラックにひかれているところを見ていると、神経がすり減った」とは、プロデューサーのポーラ・ワグナー。実際にトムは撮影中、肋骨を左右3本ずつ折った。
■アクションだけではない
そんなわけで、おなじみとなったこのシリーズ最新作は、前2作品を上回るアクションと物語のふくらみが魅力だ。
1作目はブライアン・デ・パルマ、2作目はジョン・ウーが監督。いずれも画期的な技術や映像、スタントが話題となった。今回は米テレビ界の名うての監督・脚本家であるJ.J.エイブラムスがばってきされた。

J.J.はイーサンのこれまで語られなかった私生活にも踏み込む。イーサンの恋人、ジュリア(ミシェル・モナハン)との時間を密に描く。ジュリアはイーサンから「交通整備局に勤務している技士」と聞かされている。正体が知れぬまま愛情と信頼だけでつながる2人。スーパーマンやスパイダーマンといったヒーローの神秘を漂わせる。
作品の本質についてトムは、「日常生活で直面するチャレンジは、家族と仕事とのバランスをどうやって保つか。こうした日常的な課題を究極のレベルまで引き上げた」とも語っている。
そんな2人の仲を引き裂くことにもなる悪役、オーウェン・デイヴィアンを演じる俳優、フィリップ・シーモア・ホフマンは「イーサンとジュリアは普通に人が結婚をためらう理由と同じことを経験している。私の役は、結婚という建設的な約束を阻む悪の具体化でもある」と、トム同様派手なアクションに隠されたスパイスを意識してみせる。
もしかしたらミッションも結婚も、勢いとタイミングということ? どっちもギリギリセーフがいいに決まってる。