アリゾナを舞台に外国移民が主人公
日米合作「ビッグ・リバー」 矛盾抱えた西部の旅
5月26日(金) 東京朝刊 by 松本明子
日本、パキスタン、米国と人種の異なる男女3人の4日間の旅を描いた映画「ビッグ・リバー」(27日公開)。日本人のバックパッカー、哲平役のオダギリジョーが全編英語で挑んだ作品としても話題を集めているが、監督も日本人。「echoes」(2001年)で海外から高い評価を得て、今回が2作目の日本公開となる米ニューヨーク・ブルックリン在住の舩橋淳監督に話を聞いた。
映画化はある事件がきっかけだった。米中枢同時テロ直後、アリゾナのガソリンスタンドでシーク教徒が射殺された。イスラム教徒でもないのに頭にターバンを巻いていただけで、「米国を断固支持する」と叫ぶ男に殺されたという。
「そのとき想像したのが、西部開拓時代の精神の回復。そして現代のアリゾナを舞台に外国移民を主人公にした映画を作ろうと思った。人種、宗教が異なるから事件は起こる。同時テロ後、米国を題材にした作品は多くあるが、政治的な主義主張やイデオロギーに集約されてしまうのはおもしろくないし、死んでしまう。映画とはもう少し豊かなものだし、中庸のメディアだと思っている」
舩橋監督は現実の延長線上、例えば今回描かれているような哲平とサラ(クロエ・スナイダー)の男女、アリ(カヴィ・ラズ)と哲平という年長者と若者の男同士など、純粋な人間関係を見つめ直すことができるのが映画の力、と力説する。
「内側に矛盾を抱え続ける2人の男。そこに突き刺すようにぶつかるのが米国人のサラという女性。放浪しながら威勢を張る哲平は果たして幸せなのか、一人で生きていけるのか」
ラストの哲平の激走は印象的で、観客に何かを訴えるはずだ。
舩橋監督は東大卒業後、ニューヨークのスクール・オブ・ビジュアルアーツで学んだ。まもなく在米10年を迎える32歳のまだ若手。「映画化は日々新聞を読んでそこから発想点を見つける。提示して半分は観客に埋めてもらう、強い残像を与える映画を撮り続けたい」と話している。