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映画「ワールド・トレードセンター」
オリバー・ストーン監督が来日会見
 
「プラトーン」「7月4日に生まれて」でアカデミー賞に2度輝いたオリバー・ストーン監督が新作「ワールド・トレードセンター」の宣伝のため来日。14日、都内のホテルで記者会見した。

ベトナム戦争に従軍した体験から、手がける作品には戦争下での人間の狂気や性(さが)を鋭く問うものが多い。それだけに米国内では国民の好き嫌いがはっきりと分かれる監督でもある。会見でも、米国の現況について持論を物語に絡めながら話した。

ワールド・トレードセンター

ストーン監督は新作の主題歌が流れるなか登壇。「今日はお越しくださいましてありがとうございます。この音楽が大好きで、聴いているとゆったりした気分になる。心地よく(会見場の)椅子に座れました。」

世界中を震撼させた米中枢同時テロから5年が経過。ストーン監督は、現場に救援に駆けつけた一人の警察官に焦点を絞って描く。

「あまりにも政治的な解釈が多く、現実よりも神話化してしまった部分がある。現場にいた人間の立場から描くのは大事なことだ。例えば、ベトナム戦争も「地獄の黙示録」(フランシス・フォード・コッポラ/1797)があり、「ディアハンター」(マイケル・チミノ /1978)」があり、その後、兵士を描くために「プラトーン」を製作した。今回は閉じ込められた人たちはどうだったのかを伝えたかった。ルーズベルト大統領が「恐怖とは自分の心の中にある」と言ったように、恐怖が勝ってしまい、多くの人々はあのときの苦しい戦いを忘れてしまっている。暗い部分を見つめている米国のなかで、光や希望、夢を描きたかった」

港湾局警察官(PAPD)のジョン・マクローリン(ニコラス・ケイジ)は同僚、ウィル・ヒメノ(マイケル・ペーニャ)とともに世界貿易センタービルに向かった。被災者の救出に向かうなか、ビルが轟音とともに崩壊を始めた。瓦礫(がれき)の下で奇跡的に生き残った2人は生きる希望を信じて、救援を待つ


オリバー・ストーン監督

主役は、ハリウッドのベテラン、ニコラス・ケイジに白羽の矢を立てた。

「あの年代の俳優のなかでもっとも優れた人物のひとりだと思う。(本作での)自分の年令より高く、寡黙で成熟した大人の男を演じるのは彼にとっても初めてだろう。最初は静かな彼が、死が近づくなかで変わっていく様子を目だけの演技で表現してくれた。相棒となる俳優、マイケル・ペーニャとの共演はドンキホーテとサンチョ・パンサのような対照があり、人間的にも役柄的にもバランスがよかったと思う。」

大掛かりなセットはロサンゼルスで組まれた。「地下に行くためのトンネルでは、足場も悪く、機材を運ぶのに苦労した。ほこりで空気が悪かったので、日本製のマスクを使用したが、あまりに精巧で互いの声が聞こえず、外してしまった。そのためか具合が悪くなったよ」。記者を飽きさせない配慮もみせる。

最も力を入れた場面は、壮絶な救出現場でもなく、2人が身動きのとれない瓦礫の下でもない。「救出されたマクローリンが妻に再会し、『君がいたから生き延びられたんだ』という場面が好きだ。音楽も気に入ってる。あまり叙情的になりすぎないように使った。結婚して20年、4人の子供がいるが、幸せな夫婦とは限らない。互いを見失って、愛情も薄れていたのかもしれない。が、あの日を経て、もう一度強く結ばれた。劇場ではカップルが手を取り合い涙を流していた。それを見て平和な作品が作れたと思った。政治的な作品が多いと言われることが多いが、夢や希望、信念も持っている」

ワールドドレード・センター

マクローリンとヒメノを救ったのは海兵隊の隊員だった。彼らはその後、イラクに派遣されたと劇中に説明がある。これについて、「政治的に正しい映画ではなく、どちらにも属さないものを作りたかった。あの日(テロ当日)、アメリカ人は本当に腹を立て、復しゅうしてやる、と思ったのは事実だ。アフガン戦争まではある程度まで成功した。ところがそれを終わらせないまま、うやむやのままでイラクに方向を向けてしまった。今では、戦争からどうにも逃れられない悪夢の状態だと思う。ただ、これはあくまでも私的な見解。この作品を作るとき、後世の人々がこの映画を観て、当時、アメリカ人は何を考えていたのかが伝わる映画にしたかった。海兵隊のイラク派遣については、皮肉ととるか、逆説的にとるかはそれぞれだと思うが、事実なのです」

15oliver02.jpg ストーン監督らしい“社会派の看板”は健在だが、むしろ時代の記録を作品として残そうとする責任感を感じる。父との確執が監督の個性を育んだと言われる。ストーン監督の父は第二次世界大戦を戦った。「父は、ベトナム戦争は当然、共産主義に対する正しい戦争だと主張した。私は違う意見を持っていたから、言い合いになる。すでに亡くなってしまったので、今は“幽霊”との確執になるが、ひとつだけ確かなことは、父は私を愛していた。私も父を愛していた。そこがしっかりしていれば、確執があっても親子であると思う。」

1946年生まれ。日本では団塊にあたる世代だ。次世代へエールを送る姿勢は両国に共通する年代なのかもしれない。

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記事関連情報
10月7日公開
オリバー・ストーン(監督)
アンドレア・バーロフ(脚本)

ニコラス・ケイジ(港湾局警察官ジョン・マクローリン)
マイケル・ペーニャ(港湾局警察官ウィル・ヒメノ)
マギー・ギレンホール(ウィルの妻アリソン・ヒメノ)
マリア・ベロ(ジョンの妻ドナ・マクローリン)


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