化学物質、揮発しやすく
夏こそ車の換気 「シックカー症候群」
7月28日(金) 東京朝刊 by 頼永博朗
車に乗ると、目がチカチカして気分が悪くなった。こんな症状が出たら、「シックカー症候群」の恐れがある。シックハウス症候群の車版で、内装に使われている化学物質が原因とされ、新車に多いといわれる。自動車業界は対策として、揮発性有機化合物(VOC)の低減に取り組み始めている。夏季は閉め切った車内が高温になり、化学物質が揮発しやすい環境となるため、十分な換気を心がけたい。

車内VOCの測定実験(日本自動車工業会提供)

「ブレーキ遅れた」
「新車を運転していたら、頭が痛くなり、吐き気がしてきた。そのうちボーッとなり、ブレーキを踏むタイミングが遅れることがあった」

東京都世田谷区の女性(53)は5月、納車されたマイカーを運転していて、こんな症状に見舞われた。幸い事故には至らなかったが、専門家にアドバイスを求め、車内の換気をこまめに行うようになった。

この女性と同じような悩みや相談が、大阪府立公衆衛生研究所には頻繁に舞い込む。生活衛生課主任研究員の吉田俊明さんによると、「『お客さんの服から新車のにおいがして、玄関先で気分が悪くなった』『新車のハンドルを握った手をいくら洗っても、においが取れず気分が悪くなった』と訴える人もいる。こうした悩みは、日ごろから化学物質に過敏ではない人にもあり、40〜50代の女性に多い」という。

シックハウスの問題を調べている環境問題総合研究所の理事長、片倉宏さんは「中古車の購入者にも同様の症状を訴える人はいる」としたうえで、「対策は、とにかく車内の換気をよくしたり、日光を遮るシートをかけたりして車内の温度を上げない工夫をするしかない」と話す。

密閉で高濃度に
健康に配慮した素材を使用し、VOCを低減させた日産自動車「ブルーバードシルフィ」の内装

シックカーの原因は、車内のシートやカーペット、天井材などから発生するホルムアルデヒドやトルエンなど。こうしたVOCは、塗料や接着剤などの溶剤や洗浄剤として産業界で広く利用されており、シックハウスの原因の1つとされている。環境省のデータによると、平成12年度のVOC総排出量は約185万トンで、うち8%は自動車から排出されている。

府立公衆衛生研では、国産の新車の乗用車1台について実際に使用しながら車内の化学物質濃度を測定した。1月に発表された調査結果によると、厚生労働省がシックハウス対策として定めたVOCの室内暫定目標値(1立方メートル当たり400マイクログラム)を超え、納車翌日で約35倍、1年後で約2・7倍、2年後で約2倍、3年後でも約1・4倍の濃度のVOCが検出された。

主任研究員の吉田さんは「自動車は空間に占める内装材の割合が住宅より大きい。また、密閉された空間のため、車内の化学物質濃度は高くなり、室内に居るときより注意が必要」と話す。

メーカーの努力
日本自動車工業会は昨年2月、厚労省が住宅で発生するVOC13種類について、その毒性に基づき定めた指針値を、19年度以降に発売される新型乗用車に適用することを公表した。自動車メーカー各社も、VOCの低減に乗り出している。

トヨタ自動車は15年に発売した「クラウン」以降、シート表皮をVOCの発生しない材料に変更するなどして対応。日産自動車は昨年5月、マイナーチェンジした「キューブ」でVOCを含まない接着剤の採用部分を従来車より多くするなどして、13種類すべての目標を達成し、同年12月に発売した「ブルーバード シルフィ」などの新型車でもVOCの低減を実現している。

このほか、三菱自動車は1月発売の新型軽自動車「アイ」から、ホンダも昨年9月にモデルチェンジした「シビック」から、それぞれ目標を達成している。

公衆衛生研の吉田さんは、業界の対応を評価したうえで、「車内のVOCは約250種類に上り、(厚労省が指針を定めた)13種類に対応するだけでは不十分。化学物質に過敏な人や、すでに症状の出ている患者も安心して車に乗ることができるよう、メーカーはさらにVOC濃度を低減させる開発に努めてほしい」と話している。

シックカー症候群の主な症状
 ・目が乾いた感じでチカチカする
 ・頭痛がする
 ・吐き気がする
 ・鼻水が出たり鼻が詰まったりする
 ・のどが渇く。のどがいがらっぽくなる
 ・倦怠(けんたい)感や意欲の低下
 ・思考力や集中力の低下
 ・イライラするなど感情の起伏が大きくなる

spacer.gif

お気軽にメールをください。ここをクリックするとお使いのメールソフトが自動的に起動します。

この画像をクリックするとTVnaviのサイトに飛びます

産経Webは、産経新聞社から記事などのコンテンツ使用許諾を受けた(株)産経デジタルが運営しています。
すべての著作権は、産経新聞社に帰属します。(産業経済新聞社・産経・サンケイ)
(C)2006.The Sankei Shimbun All rights reserved.