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欧米人化 将来は高くなるかも
日本人の鼻 縄文時代が一番高かった 
  東京朝刊 by 守田順一
「クレオパトラの鼻がもう少し低かったら歴史は変わっていた」(ブレーズ・パスカル)と言われるように、人の鼻は古今東西を問わず、美貌の象徴とされてきた。日本人は一般に顔が平らで鼻も低いと評されるが、一昔前の欧米映画などで描かれた固定的な日本人は少なくなっている。日本人の鼻はこれまでどう変化し、これからどう変わっていくのだろうか。

鼻根の位置
「日本人が、欧米人に比べて鼻が『低い』のは、鼻根(鼻のつけ根)部分が未発達で、正面から見た場合に位置が低く、鼻筋が短くなるため。鼻にはだんご鼻など、気になる特徴を強調した呼び方が多く、コンプレックスになりやすい」

日本美容外科学会(JSAPS)常任理事を務めるクリニカ市ヶ谷(東京)の大森喜太郎名誉院長は、日本人の鼻をこう解説する。

日本人の鼻 縄文時代が一番高かった

自分の鼻は高いのか低いのか。それを判断する基準となる平均データは意外に少ない。美容外科では、額とあごを結んだ線に対する横からみた鼻の角度を「突出度」と呼び、診断の目安にしている。美容外科手術を鼻に行う場合、顔全体との調和を重んじるが、「理想というのは大方の人が同じ。どの国でも一般論としての理想的な鼻というのが描写できる」(大森名誉院長)という。

一般的に日本人の理想とされる突出度は30〜35度の範囲で、男性は32〜33度、女性は35度とされる。欧米人は30〜40度を好むという。男女差があるのは男性の鼻根点(鼻のつけ根の位置)が女性より顔のやや上にあり、高く見えるためだ。突出度が同じでも、ストレート型、ワシ鼻、ギリシャ鼻、鞍鼻型(馬の鞍のように反って陥没した形)といった鼻背(鼻筋)の形、額や頬、あごの突出度合いで顔の雰囲気は大きく異なる。

謎多い変化
人の鼻はその時代に特有な形質を持っている。このため、遺跡の発掘などで人骨が出土した場合の時代判定にも用いられてきた。

日本人の鼻 縄文時代が一番高かった

東京大の故鈴木尚名誉教授が縄文時代から現代まで、日本人の鼻根部の隆起の変化を調べたところ、縄文人の鼻が最も高く、古墳時代に急激に低くなり、江戸時代まで時代を下るにつれて最も低いことがわかった。江戸後期・明治以降には再び急激に高くなっていた。

縄文人の鼻が高かった原因の一つとされるのが、かみ合わせ説。弥生以降の日本人は渡来系住民などの影響もあって、上の前歯が下の前歯にはさみのように重なる鋏状咬合だったのに対し、縄文人は上下の前歯がきっちりと合う鉗子状咬合で、鼻根部にかかる力が大きかったために骨が分厚くなって隆起し、鼻が高かったという説だ。ただし、これも決め手とはいえない。

高く大きく
  産業技術総合研究所デジタルヒューマン研究センターの河内まき子主任研究員らは、1894年群(1872〜1910年生まれ)と1974年群(1960〜80年生まれ)の成人(ともに平均20代)各約50人の顔面模型で、過去80年の時代変化を比較した。その結果、鼻根から目の内側の深さなどで両群に差が認められ、1974年群の方が「幅も深さも大きく、より立体的な顔立ち」で、「鼻根部の骨格に世代差」が生じていることが確認された。

ただし、こうした世代差は他の身体データを踏まえて詳しく分析しても、時代背景を主因とした栄養状態の違いなどで説明できず、「過去80年の時代変化は、それ以前の傾向や原因と異なる可能性がある」と述べるにとどめている。

日本人の鼻は今後、どうなるか。答えることは難しいが、方向はある程度予測できる。日本では現在、鼻筋にシリコン製のプロテーゼなどを埋めて鼻筋を通す「隆鼻術」が盛んだ。が、欧米で鼻の美容手術と言えば、95%が小さく低くする手術。米国では年間215万件の美容外科手術のうち、1割近い20万件を鼻が占めている。

日本では、鼻以外も含め、1年間でどんな美容外科手術が何件行われているか、公式なデータはないため、JSAPSでは現在、公開に向けてデータを整理中という。

大森名誉院長は「日本人の体は全体が欧米人化しており、鼻も高くなる傾向にあるのは確か。将来的には、鼻の高さが悩みになり、小さく低くする手術が主流になるのかもしれない」と話している。

眼鏡の鼻あて考案
欧米人に比べて低いとされる日本人の鼻だが、画期的な発明を生み出すきっかけにもなった。東京メガネ社長、白山晰也氏は、眼鏡の歴史をまとめた著書『眼鏡の社会史』の中で、「眼鏡フレームの“鼻あて”を考案したのは日本人」とするベルリン大、グリーフ教授の説を紹介している。

眼鏡は16世紀、ヨーロッパの宣教師や商人が日本にもたらしたが、モンゴル系の人たちはヨーロッパ人より鼻根が低く、ひもを輪にして耳にかけるスパニッシュイタリアン型の眼鏡ではまつげとレンズが接触してしまう。このため、ブリッジ部分に支えとなる鼻あてをつくり、レンズとまつげの間にわずかな空間ができるよう工夫したという説だ。

今や鼻パッドは世界的にも珍しくないが、白山氏は「眼鏡発展の歴史の中で日本人が登場するのはこの場面だけ」と評している。



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