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放映開始から40周年
「ウルトラマン伝説展」 怪獣にみる、高い芸術性
  大阪夕刊 by 寺西肇
今年は「ウルトラマン」の放映開始から、ちょうど40周年。社会背景を巧みに織り込んで描き込まれた人間ドラマや、当時最新の技術を盛り込んだ映像表現は、今も多くの人々を魅了し、後のヒーロー観に多大な影響を及ぼした。そして、これらと並んで高い評価を受けているのが、成田亨(昭和4〜平成14年)と高山良策(大正6〜昭和57年)という2人の芸術家によるヒーローや怪獣の造形だ。独創的な作品の数々は、世界の近現代美術とも深く結びついている。

アルカイック・スマイルをたたえたウルトラマン。成田亨によるデザインの真骨頂だ(C)1966 円谷プロ
アルカイック・スマイルをたたえたウルトラマン。成田亨によるデザインの真骨頂だ(C)1966 円谷プロ
デザインを担当した成田は、武蔵野美術学校を経て個展を開くなど彫刻家として活躍する傍ら、円谷英二のもとで特撮美術に手を染めた。昭和44年に開かれた万国博覧会では、岡本太郎による「太陽の塔」の内部「生命の樹」をデザインした。一方、成田のデザインを実際の着ぐるみの形でリアルに造形化した高山は、画家として前衛美術の世界で活躍。34年頃から特撮セットなども手掛けた。本来は彫刻家の成田がデザイン、画家の高山が立体造形を担当する“逆転関係”が面白い。

成田は「怪獣とウルトラマン」の関係を「カオス(混沌)とコスモス(秩序)」と位置づけ。ウルトラマン自体の造形には「現代の神仏」をイメージ、広隆寺の弥勒菩薩やギリシャ彫刻に見られるアルカイック・スマイル(古代の微笑み)を湛えたマスクを作った。身体のデザインは、イタリアの巨匠ペリクレ・ファッチーニの彫刻「ダイナミックな動きの表現」を参考にした、という。

敵役である怪獣や宇宙人の面々も、個性派揃いだ。成田はデザインにおいて、(1)現存する動物をそのまま映像トリックで巨大化させない(2)動物と人間などの同存化合成は行うが奇形化はしない(3)体を傷つけたり、血を流したりしない−との3原則を自らに課した。その上、高山は人が入って演じる関係で出るデザイン上の制約を克服しようと、中に入る人を複数にしたり、操り人形にしたりと工夫を怠らなかった。

ポップ・アートやキュビズムなどの影響を感じさせる宇宙人ダダ(C)1966 円谷プロ
ポップ・アートやキュビズムなどの影響を感じさせる宇宙人ダダ(C)1966 円谷プロ


ダダイズムにちなむ名を持ち、キュビズムやポップ・アートの手法が色濃い宇宙人ダダ。同じく、正面と側面の顔をひとつにしたキュビズム的デザインのケムール人。オブジェ的な発想の怪獣ブルトンは、その“オブジェ”というジャンルを初めて理論化し、「シュルレアリスム宣言」も行った詩人アンドレ・ブルトンの名を想起させる。昆虫や動物などのイメージを組み合わせる一方、2人は「怪獣の意外性」をさらに追求するため、近現代の芸術技法を自在かつ大胆に採り入れた。

誕生40周年を記念して開催中の「ウルトラマン伝説展」では、実際に撮影に使用された着ぐるみはもちろん、成田によるデザイン画や、デザイン上に大きな影響を与えたプリミティヴ・アートの仮面なども展示。2人の芸術家による、血の滲(にじ)むような作業の一端を知ることができ、これほど高い質の造形物が、週1回のペースで送り出されたことに改めて驚かされる。そして、現在も放映中のシリーズにも繰り返し登場する、これら往年の怪獣の普遍的な芸術性を実感するのだ。

 



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記事関連情報
「ウルトラマン伝説展」は19日まで、広島県立美術館(電)082・221・6246。