ペットブームが拡大するなか、住宅事情などから飼い主に捨てられ、処分される犬猫を救おうという「里親(新しい飼い主)探し」が活発化している。しかし、そんな善意に期待する心につけこみ、育てる気もないのに犬猫を引き取って業者に売り飛ばすなどの“里親詐欺”が横行しているという。
ネットに注意
「守ってくれる方を探しています」
インターネットの検索サイトに「里親」と打ち込むと、こんな書き込みのある犬猫の里親募集の掲示板が大量に現れる。
「引き取ってもいい」という人は、掲示板に書き込んだ人と連絡を取って、譲り受けるわけだ。
だが、ペット売買の法律問題などを手掛ける行政書士の井田竜馬(りょうま)さんによると、最近、「『かわいがって育てる』とだまして犬猫を引き取り、実験動物業者や皮革業者に転売してしまう」といった“里親詐欺”が増えているという。
「町内の掲示板で里親を募集をしていた昔と違い、インターネットでは不特定多数の人が引き取りを持ちかける。これも、里親詐欺の増加を許す原因となっているのでは」と井田さん。
里親詐欺の目的は転売だけでない。中には「虐待目的のケースもある」ようで、虐待の様子を克明につづったサイトもあるという。
裁判に発展
里親として猫を引き取りながらも、飼育状況が極めて不適切なため、飼育を依頼した側が提訴に踏み切るケースも出てきた。
昨年8月、捨て猫の里親を探すボランティアをしている8人が、猫14匹を里親として引き取った女性を相手取り、慰謝料の支払いなどを求めて大阪地裁に提訴した。飼育を依頼した猫は行方不明となり、被告女性のマンションには猫用のトイレが1つしかないなど、多数の猫を飼うことができる状況になかった。
同地裁は今年9月、「(転売など)何らかの不当な意図で猫を集めたと推認せざるをえない」として、女性に対し計72万円の賠償を命じる判決を下している。
契約書で自衛
「里親を捜している人は、『引き取りたい』という人が現れれば、すぐにでも渡したい気分になるが、そこで我慢が大切」と井田さんは注意を呼びかける。
「1回のコンタクトでは決めてはだめ。譲渡までにメールや電話のやり取りを何回か繰り返してほしい」。そして、相手の人柄や住環境などをしっかり見極めなければならないという。
譲渡する際も口約束ですますのでなく、「契約書を作成してほしい」と井田さん。飼育義務を文章で明確化させておき、里親が「よこしまな行為」に出たときは、取り返せる根拠を作っておくべきだという。
「1カ月間を『お試し期間』にしてその間ならいつでも取り戻せるようにしておいたり、終生かわいがって飼うことを明記し、もし乱暴に扱ったりしたら、返してもらえることなどを盛り込んでおくべきでしょう」と井田さん。「少しでも(詐欺の)リスクを減らすためには、自衛策をとることが必要」と話している。
ブーム拡大、行政乗り出す
ペットブームはとどまるところを知らない。
ペットフード工業会の調べによると、犬の飼育数は、平成14年度までは1000万匹前後で推移していたが、15年度=約1100万匹、16年度=約1240万匹、17年度=約1300万匹と増え続けている。一方、猫も14年度まではおおむね700万匹台だったが、15年度に約800万匹に増え、16年度には約1160万匹と急増、17年度も1200万匹を数えている。
「里親探し」には行政も乗り出しており、環境省は今年4月から、都道府県や政令市など計98自治体に呼びかけ、各自治体の施設に捕獲・引き取られたペット情報をネット上で公開、譲渡先を探す事業をスタートした。しかし、同省によると自治体におけるシステム整備の難しさなどから、今のところ実際に運営しているのは13自治体にとどまっているという。