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地元の足→観光の足
コミュニティーバス 新たな顔  
  東京朝刊 by 海老沢類
自治体が主体となって運営するコミュニティーバスを観光PRに生かす試みが注目されている。小回りがきく車体を生かして、狭い路地の先にある史跡や名所をめぐるコースを設定したり、観光客が宿泊するホテルと、駅やデパートの間を結んだり。交通が不便な地域で、地元住民の足を確保してきたコミュニティーバスの役割が広がりを見せている。

上野、浅草の観光名所を走る台東区のコミュニティーバス「東西めぐりん」=東京都台東区(撮影・海老沢類)

レトロ調の車体
レトロ調のデザインと小さな車体がひときわ目を引く。東京都台東区を循環するコミュニティーバス「めぐりん」に4月末、東西を走る新たなルートが加わった。

これまでの2路線は、駅やバス停から遠い交通が不便な地域を走り、区民の足を確保するのが目的だった。

新路線「東西めぐりん」の特徴は、区外から訪れる観光客の利用も狙っている点だ。雷門、東京国立博物館、上野動物園など人気の観光スポットを回る全長12キロのルートを75分で結び、運賃は他路線と同じ100円。昼間は15分間隔で運行する。車幅が2・3メートルと細いため、通常の路線バスでは通れない一方通行の道も走り抜ける。

「名所や旧跡が多い台東区の特徴を生かしたかった。『めぐりん』を使えば、低料金で街の中をゆっくりと見て回ることができるはず」と、同区道路交通課の柚木(ゆのき)宏章係長は話す。運行開始の1週間前には、都内23区内に折り込みチラシを入れ、区外からの観光客に猛アピール。夏休み中の8月は、通常の1割増の1日1300人以上が利用した。

「全国の観光客や外国人に認知されれば、乗客はさらに増える」(柚木係長)ため、来年から車内放送で名所案内や歴史の豆知識を流す。周辺の観光施設の割引券をセット販売することも検討しているという。

東西を結べ!
新宿区も、平成20年度に運行する方向で検討している「地域循環型バス」で観光へのPR効果を探っている。

「新宿駅は歌舞伎町がある東口側と、企業のオフィスや大型ホテルが立ち並ぶ西口側が複数の線路によって分断され、東西の行き来が不便な状態。『東口に行くにはどうしたらいいのか』と、西口のホテルを利用する外国人などからよく問い合わせがある」と同区都市計画課。循環バスによって、西口のホテルに泊まる観光客やビジネスマンに東口の繁華街に足を運んでもらうことで、「地域の活性化にもつながる」(同区)と期待を寄せている。

運賃は100円か200円で検討しており、西口の都庁やヒルトンホテルと東口、南口を結ぶコースなど、2つのルートを計画しているという。

半数近くが運行
国土交通省の調査によると、コミュニティーバス(乗り合いタクシーなどを含む)を運行している自治体は、昨年10月現在で、全国2418の市区町村(同年4月1日現在)のうち、半数近い914市区町村に上る。主に既存のバスが撤退した地域や、もともと路線がなかった交通不便地域の解消を目的としており、観光客にも照準を当てたものは珍しいという。

地域公共交通について調査・研究している名古屋大学大学院の加藤博和助教授(交通・環境計画)は「コミュニティーバスが全国に浸透する過程で、運営する自治体側の発想も自由になってきた。ただ、観光も目的に加える場合は、バス自体の魅力や観光地・施設の集客力が大前提になる。よく利用してもらうためには、施設割引や特典をセットにするなど、踏み込んだ工夫が必要」と指摘している。



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【用語解説】コミュニティーバス
自治体などが主体となって地域住民の利便性向上を図るために運行するバス。100円や200円の均一運賃が多い。中・小型のバスを使い停留所の間隔が短いのも特徴。自治体がバスを購入してルートを設定し、運営を民間のバス会社に委託する形が一般的で、運賃収入と運行経費の差額は自治体が負担するケースが多い。平成7年に東京都武蔵野市が運行を始めた「ムーバス」の成功を機に導入する自治体が相次いでいる。